研究課題/領域番号 |
22K05378
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 一史 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00444183)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | Small RNA / 遺伝子発現制御 / Csrシステム / 細菌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細菌のsRNAによる新たな遺伝子発現調節機構を明らかにすることである。sRNA CsrB/CはRNA結合タンパク質に結合して機能を阻害するが、環境に応答して分解される。その結果、必要時に瞬時にRNA結合タンパク質が開放され、転写後の発現調節が効率的に行われる。しかし、そのメカニズムは明らかになっていない。キチン分解酵素と分解産物取り込みの遺伝子発現を連動的に制御するアンチセンス型sRNA ChiXは、一方から他方のmRNAに標的を切り替え、それには新たなメカニズムが予測された。これらsRNAが関与するRNA安定性制御と遺伝子発現機構のメカニズム解明とその利用のため、タンパク質結合型とアンチセンス型の2種類のsRNAについて研究を実施した。タンパク質結合型sRNAに関しては、CsrDホモログを有するグラム陰性細菌のAeromonas salmonicidaでcsr遺伝子欠損株を構築した。それらの表現型を確認したところ、特に運動性に影響があった。また、本菌由来のCsrDは大腸菌のCsrDの機能を補完できることを明らかにした。さらに、大腸菌sRNA CsrBのターミネーター直前の一本鎖領域との融合遺伝子を作製し、遺伝子の発現がCsrD依存となる系を構築し、解析を進めた。アンチセンス型sRNAに関しては、RNAシャペロンHfqが結合すると考えられるchiR mRNA 5′UTRの領域に変異を加え解析した結果、ヘアピン構造が遺伝子発現に影響を与えることが示唆された。chiP mRNA 5′UTRのsRNA ChiXとの塩基対形成領域の解析結果から、この領域が他の領域よりも多く存在していることが明らかとなり、さらなる解析を進めることとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質結合型sRNAについて:大腸菌でのみ明らかとなっているCsrDによるsRNA安定性制御機能の普遍性を明らかにするため、分子系統解析により大腸菌CsrDとは相同性の低いCsrDを持つ細菌としてAeromonas salmonicidaを選択し、解析を行なった。csr遺伝子の特定と破壊株の構築を達成することができ、本菌CsrDが大腸菌で機能することを確認した。また、目的とする遺伝子の発現がCsrD依存となることを目指し、大腸菌CsrB RNAのターミネーターを含む3′末端配列を、β-ガラクトシダーゼ遺伝子のターミネーターと置き換えた融合遺伝子を構築することができた。β-ガラクトシダーゼ活性の測定等で解析を進めている。 アンチセンス型sRNAについて:Serratia plymuthicaにおいて、sRNAの機能に関与するRNAシャペロンHfqのmRNA 5′UTRのヘアピン構造形成と翻訳制御への関与について明らかにすべく、ヘアピン構造に変異を加えた融合遺伝子を構築して解析を進めることができた。また、sRNA ChiXとターゲットとなる遺伝子のmRNA 5′UTRは安定である可能性があり、その確認を進めた。その結果、sRNA ChiXと塩基対を形成するmRNA 5′UTRの領域付近は、その下流側の領域より多く存在し、安定性との関連が示唆された。これらについては、さらに研究を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
タンパク質結合型sRNAについて:CsrDによるsRNA安定性制御機構の解明として、A. salmonicidaのCsrシステムおよびCsrDの機能解析を引き続き実施する。特に、A. salmonicidaのCsrD変異株におけるsRNA半減期測定などが重要な実験となる。CsrD依存となる融合遺伝子の発現については、活性測定による遺伝子産物の確認に加えて、mRNAの安定性などの解析を進め、CsrDで安定性をコントロールできるmRNAの構築を目指す。また、大腸菌のCsrD依存sRNAであるCsrCの初発の分解部位を調べるとともに、CsrA結合部位と安定性の関係を調べ、CsrBとの相違点を明らかにする。これによりCsrD依存の原因を明らかにするための実験を進める。 アンチセンス型sRNAについて:S. plymuthicaのsRNAの機能に関与するRNAシャペロンHfqが関与するmRNAの二次構造と翻訳制御についての解析を、融合遺伝子やRT-PCR等を用いて進める。さらに、sRNA ChiXのターゲットとなるchiPQ-ctbオペロンのmRNAについて、5′UTR領域のmRNAの状態や安定性を中心に解析を進める。ChiX相補配列部分をchiPの配列に置き換えたchiR mRNA 5′UTRは、RT-PCRで検出できないにも関わらずChiXによるchiRの発現抑制を解除した。この現象の原因を明らかにするため、相補配列の長さや位置、安定性などについて解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
RNA関連の実験など、高額な試薬等を使用する実験を計画していたが、その実験を昨年度ではなく今年度実施の計画とし、その他の実験を優先させて実行したため。今年度は昨年度計画分も合わせて実験を実施し、当該助成金を使用する計画である。
|