研究課題/領域番号 |
22K05389
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
日比 慎 富山県立大学, 工学部, 准教授 (30432347)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸化酵素触媒 / 非ヘム二核鉄酵素 / 変異体酵素 |
研究実績の概要 |
令和4年度は以下の研究項目を実施した。 「A. 活性中心の解析」 AibH1H2活性中心の分子構造を分析するために、立体構造解析を実施する。この解析のためには、高純度に精製されたAibH1H2タンパク質が必要であり、まずは組換え微生物の大量培養と各種クロマトグラフィーによるタンパク質精製を行った。得られたサンプルはSDS-PAGE上で高純度で精製できていることが確認され、以後の実験に使用するのに十分な品質であった。次いで立体構造を解析するためにクライオEM解析を行った。基質-酵素複合体の解析のために、AibH1H2と基質Aibの混合液を使用した。作成した酵素溶液は、KEKクライオ電顕施設で測定を行った。現在電顕データを解析中であり、構造情報が得られ次第、詳細な構造解析を実施する予定である。 「B. タンパク質工学によるAibHYDの機能改変」 AibH1H2変異体酵素を作成し、新しい産業用酸化触媒として利用できる酵素分子の開発を目指す。まずはAibHYD活性評価用菌株の最適な反応条件の検討を行った。具体的には、培養温度・誘導剤濃度と添加タイミング・基質濃度と添加タイミング・エネルギー分子の添加などの効果を検討し、最適な反応条件を決定した。次に既知のAibH1H2立体構造を使用したモデリング解析から想定される、基質結合部位を形成するアミノ酸残基を抽出し、変異導入のターゲットとした。変異体酵素を作製する方法として、幾つかの異なる部位特異的変異導入法を試したところ、最も効率よく変異を導入できる手法を決定することができた。また変異体酵素の解析に使用するAibのアナログ化合物に関して、まずは野生型酵素に対する反応性の評価を開始した。各種Aibアナログ化合物とその生成物をキラル分離分析できる分析系の検討も行っており、すでにLC-MS法を用いた分析法を確立している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の目標とした研究内容のうち、「A. 活性中心の解析」に関しては、解析用精製酵素サンプル調製法が確立できており、順次各種解析を進めていることから、おおむね順調に進展しているといえる。「B. タンパク質工学によるAibHYDの機能改変」に関しては、活性評価用菌株の最適反応条件・変異体酵素作製方法・Aibアナログ化合物分析法が確立できており、またすでに数種類の変異体酵素を取得済みであることから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
AibHYDの触媒ユニットであるAibH1H2を対象として、基質酵素複合体や反応中間体酵素に対するX線結晶構造解析・クライオ電子顕微鏡(クライオEM)解析・スペクトル解析などを実施する。これらの解析により、各サンプルにおける活性中心の金属錯体の分子構造・酸素の結合位置・二核鉄イオンの酸化状態や、基質結合部位などの詳細について明らかにすることができる。そして得られた解析結果を基にして、二核鉄イオンを中心とした電子の流れ、酸素の挙動、基質の変化などの様子を順番に組み上げていくことで、AibHYDの反応機構の全体像を解明する。 またAibHYDの酵素改変においてターゲットとする反応としては、不活性なメチル基を含む化合物を中心に基質として用いる。不活性なメチル基の酸化は産業上重要な反応であり、高い酸化力と厳密な選択性が要求される難易度の高い反応である。特に短鎖第一級アルコールは基礎化学品の原料や次世代燃料として有望であることから、短鎖アルカンを水酸化する変異体酵素の取得を本研究の主要な目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの感染状況を考慮し、共同利用や学会参加を見送りまたはオンライン対応としたため、旅費が計画よりも少額となった。
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