研究実績の概要 |
本研究の目的は黄色ブドウ球菌において細胞壁合成の糖キャリアであるウンデカプレニルリン酸(UP)の細胞膜内側への供給に関わる遺伝子を同定し、その発現調節を解明することである。2023年度には前年度に引き続きUPおよびその直近の前駆体であるウンデカプレニル二リン酸(UPP)の細胞内含量の測定法を検討した。生菌からの抽出、分離、定量の方法を確立し、有効性の検証のため大腸菌に適用した結果を論文として発表した。 市販品のall-E-ノナプレノールおよび黄色ブドウ球菌から抽出した炭素数35, 40, 45, 55のプレノールを化学的にリン酸化して得たプレニルリン酸およびプレニル二リン酸を標準物質として、これらの物質の挙動を確認した。その結果、菌体からこれらの物質をクロロホルム-メタノールで抽出し、イオン交換カートリッジにより分別したのち、イオンペア試薬を含む溶媒を用いるHPLC分析により炭素数35から55のプレニルリン酸、プレニル二リン酸を定量する方法を確立した。従来は菌をアルカリ処理し加水分解により生じたプレニルリン酸をHPLCで分析していたので、リン酸エステル誘導体総量の測定であったが、本研究成果によりUPとUPPを別々に定量して細胞内におけるUPPの脱リン酸化の程度を知ることが可能となった。この方法を大腸菌に適用しオクタプレニルリン酸(OP)、オクタプレニル二リン酸(OPP)、UPおよびUPPを定量した。OP、OPPの合計量はオクタプレニルリン酸エステル誘導体の総量にほぼ等しいのに対して、UP、UPPの合計量はウンデカプレニルリン酸エステル誘導体の総量の52%程度であった。総量との差は糖が結合した中間体によると推測される。OP含量に対するOPP含量の割合が21%であるのに対し、UP含量に対するUPP含量の割合は2.6%でありUPP含量は低く保たれていることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
大腸菌においてUPP含量を正確に測定できるようになったので、リピドホスファターゼ遺伝子(bacA, pgpB, ybjG)欠損株におけるUPP含量を測定しこれらの遺伝子産物のUP生成への寄与を見積もる。また、これらの遺伝子およびその他のUP生成に関わる遺伝子の発現解析を行う。さらに、大腸菌の野生型株およびリピドホスファターゼ遺伝子欠損株に黄色ブドウ球菌のリピドホスファターゼ遺伝子(bacA, pptA, pptB)およびリピドキナーゼ遺伝子(dgkA)を導入して、ポリプレノール誘導体含量およびバシトラシン感受性への影響を調べる。 黄色ブドウ球菌のリピドホスファターゼ遺伝子産物の酵素活性に関する実験結果、および、リピドキナーゼ遺伝子、および3種類のリピドホスファターゼ遺伝子の単独破壊株、多重破壊株の特性とウンデカプレール誘導体含量についての実験結果を論文にまとめる。また、これらの遺伝子発現解析を行う。測定対象とする遺伝子は、リピドキナーゼ遺伝子dgkA, リピドホスファターゼ遺伝子bacA, pptA, pptBに加えて、プレニル二リン酸合成に関わるファルネシル二リン酸合成酵素遺伝子ispA, オクタプレニル二リン酸合成酵素遺伝子hepT, UPP合成酵素遺伝子uppSなどである。野生型株および破壊株を用いてバシトラシンなどの薬剤添加時の遺伝子発現を測定し、ウンデカプレノール誘導体含量、薬剤感受性のデータと照らし合わせてリピドキナーゼ遺伝子、リピドホスファターゼ遺伝子の相互作用、役割の違いの解明を目指す。
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