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2023 年度 実施状況報告書

乳酸菌が産生する膜小胞の「量」と「質(免疫賦活活性)」の制御

研究課題

研究課題/領域番号 22K05396
研究機関関西大学

研究代表者

山崎 思乃  関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50602182)

研究分担者 片倉 啓雄  関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50263207)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード乳酸菌 / 膜小胞 / 免疫賦活活性 / 糖源
研究実績の概要

ヒトの腸内では多種多様な腸内細菌が腸内細菌叢を形成し、宿主と共生している。腸内細菌叢のバランスの破綻は疾病を誘発することから、乳酸菌がもつ整腸作用が注目されている。我々はこれまでに腸内細菌叢のバランス維持や感染予防を担う免疫グロブリンA(IgA)の産生を増強する乳酸菌Limosilactobacillus antriを見出していたが、本菌株が産生するナノサイズの膜小胞(メンブランベシクル; MV)もIgA産生を増強することを発見した。このMVを機能性食品や粘膜ワクチンの免疫増強剤として応用することを目指しているが、厚い細胞壁をもつグラム陽性菌の乳酸菌においては、産生するMV量の少なさが課題である。そこで本研究では、MVの「量」と「質(免疫賦活活性)」を向上させることを目指し、昨年度は静菌剤として利用されるグリシンを用いて乳酸菌の細胞壁を脆弱化することで、免疫賦活作用を維持したMVの高産生を実現した。本年度は、MVの「質」を高める培養条件の探索を目的とし、L. antriの免疫賦活をもたらす活性成分の一つであるリポテイコ酸(LTA)に着目し、LTA含量の高いMVを高産生させる条件を検討した。その結果、培地の糖源をグルコースからその他の糖源に変更することで、MV産生量のみならず、MVに含まれるLTA量が変化することを見出した。特に、キシロースを糖源とすることで、MV産生量のみならず、脂質当たりのLTA量が増大し、MVの「量」と「質」を両立できる可能性を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

リポテイコ酸(LTA)はグラム陽性菌の細胞壁を構成する成分の一つであり、細胞膜にアンカーされ、菌体表層に向かってペプチドグリカン層を縦断する分子である。LTAにはトル様受容体2を介した免疫賦活活性があることが知られており、L. antriの免疫賦活活性においてもLTAが活性本体の一つであることを見出している。本研究ではこれまでに培養条件がL. antriのMV産生量に及ぼす影響を検討してきたが、培地の糖源には一般的なグルコースを用いていた。しかし、グルコース以外の9種の糖(単糖、二糖、三糖)を糖源として本菌株を培養すると、菌体量のみならず、MV産生量とMVの脂質当たりのLTA量が変化することがわかった。中でも、キシロースを糖源とすると、菌体量は約3倍、MV産生量は約60倍に増加し、脂質あたりのLTA量も顕著に増大した。また、マルトースを糖源とすると、キシロースより菌体量および脂質あたりのLTA量は増大することも明らかにしたが、MV産生量はキシロースの1/20程度にとどまった。一方、ラフィノースでの培養では、MV産生量はキシロースの約2倍まで増大したものの、脂質あたりのLTA量は1/4程度であった。これらの結果は、キシロースを糖源とすることで免疫賦活活性の高いMVを高産生できることを示唆するものであり、今後は、キシロースがMV産生の促進やLTA含量の増大をもたらす機構について検討する予定である。

今後の研究の推進方策

本年度は、L. antriを培養する際の糖源を変更し、MV産生量とMVに移行するLTA量を増大させることで、MVの「量」のみならず「質(免疫賦活活性)」を向上できる可能性を示した。最終年度は、より質の高いMVを大量に取得するために、LTA生合成関連酵素の発現量を遺伝子組換え操作により調節することで免疫賦活活性の高いMVを本菌株に産生させることができるかを引き続き検討する。
また、MV研究の進展やMVの実用化には、超遠心分離を用いない簡便な精製法が必須である。そこで、MVの表層分子や物理化学的性質を利用したマイルドかつ高効率なMVの精製法を確立する。

次年度使用額が生じた理由

本年度の消耗品費として未使用額が生じたため、次年度に消耗品費として使用する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] RNA-Based Anti-Inflammatory Effects of Membrane Vesicles Derived from Lactiplantibacillus plantarum2024

    • 著者名/発表者名
      YAMASAKI-YASHIKI Shino、KAWASHIMA Fumie、SAIKA Azusa、HOSOMI Ryota、KUNISAWA Jun、KATAKURA Yoshio
    • 雑誌名

      Foods

      巻: 13 ページ: 967~967

    • DOI

      10.3390/foods13060967

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] High productivity of immunostimulatory membrane vesicles of <i>Limosilactobacillus antri</i> using glycine2024

    • 著者名/発表者名
      YAMASAKI-YASHIKI Shino、SAKAMOTO Yu、NISHIMURA Keiko、SAIKA Azusa、ITO Takeshi、KUNISAWA Jun、KATAKURA Yoshio
    • 雑誌名

      Bioscience of Microbiota, Food and Health

      巻: 43 ページ: 55~63

    • DOI

      10.12938/bmfh.2023-029

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 腸内細菌が産生する膜小胞の特性解析2024

    • 著者名/発表者名
      杜昊聡,片倉啓雄,山崎思乃
    • 学会等名
      日本農芸化学会2024年度大会
  • [学会発表] 曲率認識ペプチドを用いた乳酸菌の膜小胞産生条件の検討2024

    • 著者名/発表者名
      中村めい,前川沙喜子,河野健一,片倉啓雄,山崎思乃
    • 学会等名
      日本農芸化学会2024年度大会
  • [学会発表] 乳酸菌と酵母の共培養系における細胞外小胞の産生2023

    • 著者名/発表者名
      西村 泰風,川上 歩夏,片倉 啓雄,山崎 思乃
    • 学会等名
      第75回日本生物工学会
  • [学会発表] Limosilactobacillus antri JCM 15950T 由来リポテイコ酸の免疫賦活作用の解析2023

    • 著者名/発表者名
      刑部 真以,久保 宏実,白石 宗,横田 伸一,片倉 啓雄,山崎 思乃
    • 学会等名
      日本乳酸菌学会2023年度大会
  • [学会発表] 曲率認識ペプチドを用いたプロバイオティクス由来メンブランベシクルの簡便な定量法の開発2023

    • 著者名/発表者名
      中村 めい,前川 沙喜子,河野 健一,片倉 啓雄,山崎 思乃
    • 学会等名
      日本乳酸菌学会2023年度大会
  • [学会発表] Anti-inflammatory effect of Lactiplantibacillus plantarum-derived membrane vesicles2023

    • 著者名/発表者名
      Shino Yamasaki-Yashiki, Fumie Kawashima, Azusa Saika, Ryota Hosomi, Jun Kunisawa, Yoshio Katakura
    • 学会等名
      The 13th Asian Conference on Lactic Acid Bacteria
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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