研究課題/領域番号 |
22K05410
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
上地 敬子 琉球大学, 農学部, 助教 (70733426)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ニゲラン / 窒素源飢餓 / Aspergillus luchuensis / 遺伝子発現 / 転写調節因子 |
研究実績の概要 |
泡盛醸造に用いられる黒麹菌Aspergillus luchuensisは窒素源飢餓条件下でグルコースがα-1,3/α-1,4-グリコシド結合を交互に繰り返すニゲランという細胞壁多糖を合成する。これまでに研究代表者は窒素源含有/飢餓条件下での遺伝子発現解析等を実施し,ニゲラン合成酵素遺伝子クラスターを発見し,報告した。しかしながら,ニゲラン合成糸状菌におけるニゲラン合成の生理学的な意義については解明に至らなかった。本研究では,遺伝子発現解析とニゲラン合成糸状菌とニゲラン資化細菌の微生物間相互作用解析を通じて糸状菌におけるニゲラン合成の意義を理解するための知見を得ることを目的とした。昨年度までにA. luchuensisの窒素源代謝に関わる転写調節因子あるいは先行研究で実施した遺伝子発現解析で窒素源飢餓時に転写量が増加した転写調節因子をコードする遺伝子の破壊株を作製し,ニゲラン合成能への影響について検証した。窒素源代謝に関わる広域転写因子AreAの発現とニゲラン合成酵素遺伝子の発現パターンについて検証した。また昨年度から引き続き,ニゲラン合成酵素遺伝子の上流領域とレポータータンパク質遺伝子を連結したベクターを用いてA. luchuensisを形質転換し,活性を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
A. luchuensisの各種転写調節因子をコードする遺伝子の破壊株のニゲラン合成能を検討した結果,窒素源飢餓時に二次代謝物合成に関わる数百もの遺伝子発現を調節する広域転写活性化因子をコードするareA遺伝子破壊株はニゲラン合成能を失った。A. luchuensisにおいてニゲラン合成酵素遺伝子の発現がareAの発現パターンと一致しているのか確認するために,各種アミノ酸,硝酸,亜硝酸など様々な窒素源を含む培地で培養し,RT-PCRを行った。その結果, areAの発現(量)とニゲラン合成酵素遺伝子の発現パターンは一致することが分かった。しかしながら,ニゲラン合成酵素遺伝子の転写開始までのラグは大きく,またAreAの転写調節を受ける既知遺伝子よりも発現量が低いことが示唆された。昨年度から引き続きニゲラン合成酵素遺伝子の上流領域とレポータータンパク質(β-グルクロニダーゼ)をコードする遺伝子を連結したプラスミドを再構築し,形質転換したA. luchuensis株を得たが,活性は確認できなかった。ニゲラン合成酵素遺伝子のプロモーター活性が低いことがひとつの可能性として考えられた。そのためニゲラン合成糸状菌としてA. luchuensis以外の糸状菌を本研究に利用することにした。ニゲラン合成酵素遺伝子をもつ糸状菌をNBRCから分与してもらった。各種糸状菌のニゲラン合成量は種あるいは株によって差が大きく,また合成されるニゲランの分子量が異なることが示唆された。今後はこれらの糸状菌のニゲラン合成酵素遺伝子上流域をレポータータンパク質遺伝子と連結し,引き続きレポーターアッセイを試みる。また今年度から開始した糸状菌のニゲラン分解酵素の探索では,窒素源飢餓条件下でニゲランを合成させた後に,窒素源を含む培地でニゲラン分解が生じる可能性が示唆されたものの,分解酵素の同定には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗状況にも記載した通り,レポーターアッセイについてはニゲラン合成能が高い糸状菌のニゲラン合成酵素遺伝子上流領域を使用して再試験を行う。また当初はレポータータンパク質の活性確認後にゲルシフトアッセイを行う予定であったが,研究進捗が遅れているので,推定AreA結合領域をもつDNA断片をプローブ,すでに遺伝子クローニングしたAreA DNA結合ドメインを用いて同時並行で実施する。 ニゲラン分解酵素の探索について,ニゲラン合成能を持つ糸状菌のみが持つグリコシルファスチジルイノシトール(GPI)アンカー型グルカン分解酵素の中にニゲラン分解酵素が含まれると予想している。これらの遺伝子をクローニングして組換え酵素として酵素化学的諸性質を決定するとともに,遺伝子破壊株を作製してニゲラン量や分子量に影響するか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたよりも実験が進まなかったため,EMSA用の試薬類などの購入を見送らざるをえなかった。そのためこれらの実験を進めるための必要試薬を次年度購入する。
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