研究課題/領域番号 |
22K05423
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
矢野 成和 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (50411228)
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研究分担者 |
真壁 幸樹 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (20508072)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | キチナーゼ / 耐熱性 / 抗真菌 |
研究実績の概要 |
Lysobacter enzymogenes MK9-1由来のGH19キチナーゼChi19MKは、抗真菌活性を有する酵素であり、Trichoderma reeseiの生育を強力に阻害する。また、pH 1 - 4.5の範囲で優れた熱安定性を示し、pH 4.0の緩衝液中で、5時間、80℃で処理しても活性を保持する。本酵素は、キチン結合ドメインと触媒ドメインから構成されており、本酵素の熱安定性に関わる構造的特徴を調べるために、結合ドメインを欠失させた変異酵素(Chi19MKcat)の作製を行なった。 CDスペクトル解析の結果、Chi19MKcatの安定性は若干低下するが、野生型酵素と同様に、加熱することで二次構造の変化がみられ、冷却することで二次構造がもとに戻った。また、加熱処理後のChi19MKcatは、T.reeseiの菌糸の生育阻害活性を維持していた。同様のCDスペクトル解析を細菌に由来する2種類のGH19型酵素について検討したが、加熱後に冷却しても二次構造がもとに戻らなかった。この結果から、Chi19MKの触媒ドメインは、他の細菌由来GH19キチナーゼとは異なり、熱変性後にリフォールディングすることが示唆された。 Chi19MKの触媒ドメインが、他のGH19キチナーゼと異なる立体構造を有するのかを調べるために、Chi19MKcatを用いて結晶化を試みた。各種条件をスクリーニングすることで得た単結晶について、X線結晶構造解析を行ったところ、分解能2.7Åで結晶構造が決定した。現在、得られたChi19MKcatの立体構造と既知酵素の立体構造を比較し、異なる構造を有する箇所に変異を導入している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、キチナーゼChi19MKの酸性条件下における熱安定性メカニズムの解析を解析するために、酸性・高温下でのキチナーゼChi19MKの構造変化をCDスペクトルで解析することを予定していた。研究を開始した当初は、触媒ドメインのみから構成される欠失変異酵素Chi19MKcatを大腸菌宿主ベクター系で発現させると封入体を形成してしまい、CDスペクトル解析を行うことができなかった。しかしながら、可溶化条件を検討することで、Chi19MKcatのリフォールディングに成功した。このようにして得たChi19MKcatを用いてCDスペクトル解析を行うことで、Chi19MKcatが野生型酵素と同様に、熱変性後にリフォールディングすることを明らかにした。 初年度では、Chi19MKのX線結晶構造解析を行うために結晶化を開始することを予定していた。野生型のChi19MKの結晶を得ることはできなかったが、上記の検討で得た欠失変異酵素Chi19MKcatを用いて、結晶条件をスクリーニングすることで、結晶を得ることができ、結晶構造を明らかにすることができた。当初の計画では、2024年の9月までを予定していたが、予定よりも早く結晶構造を明らかにすることができた。現在、本酵素の熱安定性に関わると思われる部位に変異を導入しており、リフォールディングに関わる配列を解析している。 以上のように、Chi19MKの酸性条件下における熱安定性メカニズムを解明するための構造解析が、当初計画よりも進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、Chi19MKの酸性条件下における熱安定性メカニズムを解明するために必須なX線結晶構造解析を行うことができ、Chi19MKの触媒ドメインの立体構造を明らかにすることができた。2023年度は、他の細菌や植物に由来するGH19キチナーゼとChi19MKのアミノ酸配列と立体構造を比較することで、リフォールディングに関わるアミノ酸配列を予測して、部位特異的変異導入を行う。作製した変異酵素に対して、加熱・冷却処理によるCDスペクトルの変化を解析して、加熱処理後のリフォールディングに関わるアミノ酸配列を決定する。 2023年度は、抗真菌酵素製剤化を目指した安定化剤の探索と、Chi19MKと相乗効果を示す抗真菌剤や多糖分解酵素の探索を開始する。安定化剤を探索するために、まず、Chi19MKの常温での長期安定性を評価する。長期安定性を評価する際は、酸性の緩衝液と中性の緩衝液を用いて、Chi19MKのキチン分解活性を経時的に測定する。安定性が低下する中性の緩衝液を用いることで、安定化剤の効果を明確に判断できるようにする。Chi19MKと相乗効果を示す多糖分解酵素の探索は、すでに研究室で保有するα-1,3-グルカナーゼやβ-グルカナーゼを用いて検討するとともに、多糖分解酵素生産菌から新たにクローニングも行う。クローニングには、データベースの配列を活用することで、1菌株から複数の酵素のクローニングを行う。研究室で保有するβ-グルカナーゼ数は少ないので、β-グルカナーゼを中心にクローニングを行う。 構造解析が当初予定よりも早く進展しているので、本年度は、Chi19MKの改変も開始する。まずは、抗真菌活性を高める効果があるキチン結合ドメインをタンデムに付加した変異酵素の作製を目指す。 以上、2023年度はいくつかの研究項目を前倒して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究申請時は、設備備品として、UV/Vis吸光光度計用のプログラム機能付恒温セルホルダーを計上していたが、交付決定額から考えて購入しなかった。なお、現有の円二色性分散計にプログラム機能付恒温セルホルダーが接続されていたので、円二色性分散計を用いることで代用することができた。 Chi19MKのX線結晶構造解析を行うために、結晶化試薬を購入する予定であったが、当初予定よりも進展したために、試薬類の購入費用を抑えることができた。また、キチナーゼChi19MKの変異酵素を調製するために、人工合成DNA費とDNA解析費を計上したが、予定していたよりも低予算で実施することができた。 以上のことから、次年度使用額が生じた。
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