研究課題/領域番号 |
22K05426
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片岡 邦重 金沢大学, 物質化学系, 教授 (40252712)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルチ銅オキシダーゼ / 酵素電極 / 電子移動反応 / 化学修飾 / ポリエチレングリコール |
研究実績の概要 |
糸状菌Myrothecium verrucaria由来のビリルビンオキシダーゼ(mBOD)はマルチ銅オキシダーゼの一種で,基質や電極から受容した電子を用いて酸素を水に還元する反応を触媒する。mBODは,直接電子移動型電極触媒として非常に高い電極触媒活性を示すことから, 酵素燃料電池のカソード電極触媒への応用が期待されている。Pichia酵母を宿主として発現した組換え型BOD(pBOD)と天然型mBODを比較すると,水溶液中での酵素活性はほぼ変わらないが,pBODの電極触媒活性はmBODの約2倍に増大する。 この差はBODの分子表面に付加したN結合型糖鎖の大きさと組成の違いが原因と考えられた。本研究では,糖鎖切断酵素Endo F1を用いてpBODとmBODの糖鎖を切除したdg-pBODとdg-mBODを調製し,糖鎖切除前後の電極触媒活性を比較した。 グラッシー炭素電極にKetjen Black(KB)粉末を塗布したKB/GCE電極,更に4-Aminobenzoic acid(ABA)で修飾し負電荷を持つABA/KB/GCE電極,p-Phenylene diamine(PDA)で修飾し正電荷を持つPDA/KB/GCE電極を用いて電気化学測定を行なったところ,糖鎖切除酵素はABA修飾電極で高い電極触媒活性を示した。BODの電子受容部位近傍には塩基性アミノ酸残基が局在することから,酵素の吸着配向が静電相互作用により支配されていると考えられる。一方,mBODとpBODの糖鎖を分析したところ,前者は電荷を持たない高マンノース型糖鎖,後者はシアル酸を含む高分子量の複合型糖鎖であった。ABA修飾電極における各BODの電極触媒活性はpBOD > dg-pBOD = dg-mBOD > mBODの順となり,糖鎖の組成や大きさにより電極との相互作用に変化が生じたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にはBODに結合した糖鎖の組成と大きさが電極への配向に寄与していることを明らかにした。続いて糖鎖結合部位である2つAsn残基をCysに置換した変異体を大腸菌で発現させることに成功し,既にポリエチレングリコール(PEG)による修飾酵素の調整を行なっている。組成の異なる複数のPEGで修飾した酵素を用いて電気化学測定・評価も一部進めており,おおむね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度には,大腸菌で発現させた糖鎖を持たないeBODをベースタンパク質に用いて,N型糖鎖結合残基の変異体(N472C, N482C, N472/482C)を調整し,Cys特異的なPEG付加を行う。PEG修飾酵素の電気化学測定によりPEG鎖が電極配向に及ぼす影響を明らかにする。特に電荷を持つPEGを用いることで,酵素の電極配向を積極的にコントロールし,電極触媒活性を増大させることを目指す。更に,BODの電子受容部位近傍にPEG鎖を導入する事により,電極配向をより直接的に制御する方法を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用を予定していた化学修飾試薬の国内在庫がなく,アメリカでの生産後の輸入となったため,代替試薬を用いる実験条件の検討に3ヶ月を要する事になり,一部の実験が令和4年度内に完遂できなかったため繰越金が生じた。繰越金は,令和5年度に物品費として化学修飾試薬の購入に充てる予定である。
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