これまでに我々は心筋細胞の収縮機能に重要なカルシウムハンドリング遺伝子Aがヒト生後の心筋細胞に発現してくる事に着目して、遺伝子Aの発現を亢進させる化合物XをヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CMs)の成熟化促進化合物として見出している。化合物Xはコリン作動系シグナルの活性制御を介して細胞内のカルシウムハンドリング機能を亢進し、より強い収縮力を持った成熟度の高い心筋細胞の創出に寄与していると考えている。 そこで、生後の心筋細胞レベルの成熟度を示すhiPS-CMsの作製を目指し、本年度は化合物の作用メカニズムの解明に着手した。化合物Xを添加したhiPS-CMsのRNA sequence (RNA-seq)データ解析より、着目するコリン作動系シグナルと協調して変動するシグナル経路を抽出した。そのうちひとつのシグナルを活性化させる化合物Yを化合物Xと併せて心筋分化中の培地に添加すると、成熟化に関連する遺伝子群の発現が化合物X単独に比べて上昇することが分かった。コリン作動系シグナルとクロストークするシグナル経路を明らかにした事で、今後最適な成熟化化合物の添加条件が確立できるものと考えている。また、本年度は心筋細胞の成熟化評価のひとつであるパッチクランプ法による心筋細胞の活動電位測定も開始した。化合物Xを添加して分化したhiPSC-CMsは、添加していないコントロール細胞と比較して成熟心筋細胞に特徴的な活動電位波形を示した。コリン作動系シグナルの活性調節によって電気生理学的にも成熟化した心筋細胞が得られることが示唆された。
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