研究課題/領域番号 |
22K05432
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
白石 博久 岩手医科大学, 薬学部, 特任教授 (80393156)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | CDC-48 / p97 / VCP / 線虫 / 複屈折性 / 多系統蛋白質症 / オルガネラ異常 / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
VCP/p97は、酵母から哺乳類までのあらゆる真核生物が有しており、細胞内のタンパク質分解を始めとする様々な細胞機能に関わっている分子シャペロンタンパク質である。それ故に、その機能不全は異常タンパク質の凝集・蓄積を生じ、神経・筋変性疾患など種々の遺伝性疾患の発症につながるとされている。申請者らは、線虫C. elegansを用いた解析から、線虫のVCP/p97ホモログであるCDC-48の発現抑制が、複屈折性を有する特徴的なオルガネラの肥大化、蓄積を腸細胞内に引き起こすことを見出した。このオルガネラレベルでの異常を指標として、生体内における複屈折性オルガネラの実体解明を試みると共に、細胞内タンパク質分解異常に関連した新たな疾患モデルとしての可能性を提示すべく研究を進めている。研究初年度は、線虫cdc-48のRNAiによる複屈折性異常顆粒の形成には、線虫が有する2つのcdc-48遺伝子(cdc-48.1およびcdc-48.2)が両方かつ部分的に発現抑制される必要があること、更に、正常な複屈折顆粒の形成に関わる因子群も関与していることを示唆する結果を得た。 研究年度2年目となった令和5年度は、研究計画[2]の「複屈折性異常顆粒形成に関与する関連因子の探索」について、エンドサイトーシスや細胞内小胞輸送に関わるタンパク質の遺伝子変異体を用いて、cdc-48遺伝子の発現抑制による複屈折性異常オルガネラの形成の有無を解析した。その結果、異常オルガネラの形成には、後期エンドソームからリソソームの形成過程に関わる因子(少なくとも7因子)が主に関与していることを見出した。また、VCP/p97は、様々なコファクターと強調して働くことで多様な細胞機能に関わっていることから、その線虫ホモログについて複屈折性異常オルガネラの形成・蓄積を示す遺伝子欠損変異体の解析を始め、候補遺伝子を見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度(研究計画2年目にあたる令和5年度)より、それまで在籍していた生物薬学講座・生体防御学分野から、実務臨床系教育や多職種連携教育、更に卒業・国家試験突破に向けた学生の基礎学力向上のためのマネジメントを担う研究室(臨床薬学講座・薬学教育学分野、ワンオペレーション研究室)に配置転換となり、教育業務に係るエフォートが著しく増大した。加えて、令和4年度改訂の新しい教育モデルコアカリキュラムに準拠した大学独自のカリキュラム構築のため、カリキュラム策定を所掌する学部内部会の委員長として学部運営関連業務も増大した。これらの理由により、研究時間、とりわけ計画的な日程調整の必要な実験に係る数週間単位の実験時間の確保が難しくなったことが研究の遅延に影響している。 研究計画 [1] の「CDC-48.1/CDC-48.2の発現量と複屈折性異常顆粒形成との関連の解析」については、初年度に得られた成果からさらに踏み込んだ定量的な解析が遅れている。研究計画[2]の「CDC-48の機能不全による複屈折性異常顆粒形成に関与する因子の探索」 については、正常な複屈折顆粒形成に関わる因子やその他の細胞内小胞輸送関連因子、更にVCP/p97(線虫CDC-48)のコファクターホモログを見出しており、研究実績の概要に示す通り順調に進展しているといえる。一方、研究計画2年目から進める予定であった、異常顆粒の性状と構成成分を同定するための実験(研究計画[3])については、先述の理由により着手が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
cdc-48.1/cdc-48.2の発現量と複屈折性異常オルガネラ形成との関係について、異なる表現型を示すRNAi処理線虫におけるcdc-48.1およびcdc-48.2の発現量をReal Time PCRによって定量的に調べる。また、VCP/p97(線虫CDC-48.1、CDC-48.2)の種々のコファクター候補と異常オルガネラ出現との関係についても、引き続き未解析の因子の変異体やRNAiを用いて解析を行う。 研究計画[3]に掲げていた複屈折性異常オルガネラの性状および構成成分の同定に向けて、各種オルガネラマーカー発現線虫を用いて複屈折性異常オルガネラの膜成分の由来を探る。更に、複屈折性異常顆粒に含まれる生体分子を同定するため、複屈折性を指標に線虫破砕液から複屈折性顆粒を単離し、質量分析による成分分析を行うための実験系を確立する。先述の研究の進捗状況に鑑み、研究期間の延長申請も視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗遅延に関する先述の理由・経緯により、研究計画初年度に予算を計上していた腸細胞内顆粒単離のためのピッキングシステムについては、上述の経緯により、最終的な機器選定にあたっての検討を改めて次年度に繰り越すこととなった。また、研究費申請時に想定していた経験値の高い実験補助員は他所での雇用継続により2年目も雇用は叶わず、他に適当な人材が見つからなかった。更に、研究遅延と多忙化した教育業務日程との兼ね合いから、研究2年目に予定していた学会参加も断念したため、次年度に繰り越すこととなった。従って、研究期間の延長申請も視野に入れている。
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