研究課題
過酸化リン脂質は細胞内の炎症シグナルの伝達をはじめとする様々な生理活性を有している。これらは、種々のリン脂質の疎水性尾部に見られる不飽和脂肪酸が酸化ストレスによって過酸化を受けることが初動反応と考えられている。しかし、生体内では過酸化リン脂質は非常に短命であることから、直接的な作用機構は未解明であった。そこで本研究では過酸化リン脂質およびそれらの二次酸化生成物を化学合成するとともに、可視化プローブの開発を遂行した。これまでに、天然のミトコンドリア膜に見られる過酸化カルジオリピンの全合成を達成し、さらにその二次酸化生成物の合成を進めている。これらの進捗を受けて、計画通りに可視化プローブの合成を開始しており順調に進められている。一方で、過酸化カルジオリピンの合成経路を発展させて過酸化ホスファチジルセリンの合成も達成した。過酸化ホスファチジルセリンは、GPCR型の炎症シグナル受容体に対して基質認識を受けることが明らかになり、同様に二次酸化生成物の展開による作用機構の解明を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画上の技術的な課題であった過酸化リン脂質の合成に成功した点は非常に大きな進捗と捉えることができる。研究期間の開始以降だけでも天然型、人工型を併せた各種リン脂質を10種以上、過酸化リン脂質も3種類以上を合成し、得られた技術的進捗を類縁体合成に活かすことができた。これらの化学合成の基盤が高いレベルで整ったことは、本研究計画の進展にも波及効果が大きい。加えて、得られた過酸化ホスファチジルセリンに炎症シグナルの伝達活性が認められるなど、新たな知見も得ることができている。リン脂質の分子種として計画開始当初よりも充実することができているため、計画以上の進展と評価した。
過酸化リン脂質について化学合成の基盤を整えることができたことから、次年度以降はそれらの類縁体合成とプローブ合成に発展させることで計画を遂行する予定である。既に合成類縁体を多数得ているカルジオリピン、ホスファチジルセリンについては二次酸化生成物の合成を進めることとし、最終目標である作用点タンパク質の可視化に向けた予備実験を早期に開始する。
研究計画として準備していた化学合成の面で計画以上の進展が見られ、そのための条件検討の費用を抑えて初年度を終了する結果となった。これらの費用は、今後さらに必要となる分子プローブの合成および条件検討やそれらの性能評価に用いる各種生理機能解析の試薬類に用いる予定になっている。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)
Biochimica et Biophysica Acta(BBA) -Molecular and Cell Biology of Lipids
巻: 1867 ページ: 159158-159168
10.1016/j.bbalip.2022.159158