研究課題/領域番号 |
22K05462
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 文太 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (10544637)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | ステロイドグリコアルカロイド / 配糖体 / ナス科植物 / 生合成 / 有機合成化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、重水素標識したコレステロールのグルクロン酸配糖体を植物体に投与して、その代謝過程を追跡する実験を行う。そのため今年度は、重水素標識したコレステロールを合成した。3位のヒドロキシ基を保護した、20位にメトキシカルボニル基を有する炭素数21のエステルを調製し、その20位を、22位から27位の側鎖構造をもつ臭化物でアルキル化した。このアルキル化では、文献記載の有毒なHMPAにかえて低毒性のDMPUを用いたが、反応速度や収率に影響はなかった。次に、重水素化リチウムアルミニウムを用いて20位のメトキシカルボニル基を3個の重水素で置換したメチル基まで還元し、最後に3位の保護基を除去することで、目的とする重水素標識コレステロールを得た。 また、本研究では、コレステロールの22位や26位にヒドロキシ基を導入する酸化酵素の機能を解明するために、コレステロール、あるいは、その22位や26位にヒドロキシ基をもつ誘導体のグルクロン酸配糖体を酵素反応の基質や生成物として用いる。今年度はまず、コレステロールのグルクロン酸配糖体を合成した。市販の、ヒドロキシ基をアセチル基で、カルボキシ基をメチルエステルでそれぞれ保護した、アノマー位に臭素原子を有する糖を供与体として、酸化銀の存在下グリコシル化を行った。この際、反応を促進するためには加熱条件が必要であった。次に、得られた生成物の保護基を塩基性で加水分解し、イオン交換樹脂で中和した後クロマトグラフィーで精製して、目的とするコレステロールのグルクロン酸配糖体を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、21位に3個の重水素を導入したコレステロールを数百ミリグラム単位で合成した。これにより、前年度に確立した、22位にヒドロキシ基をもつステロイドの新規側鎖構築法において、21位に実際に重水素を導入可能なことが示された。また、今年度は、コレステロールのグルクロン酸配糖体を数百ミリグラム単位で合成した。この過程で、より複雑な構造をもつグルクロン酸配糖体の合成経路および精製法の見通しが立った。今年度合成した化合物は次年度以降の研究に使用するものであり、また、今年度の合成で得られた知見は次年度以降の合成研究において貴重なため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)グリコシル化反応の効率化:今年度行ったグリコシル化反応の条件を種々検討して、より高収率で目的化合物を得ることのできる反応条件を見出す。 (2)重水素標識したコレステロールのグルクロン酸配糖体の合成:(1)で見出した条件に基づき、今年度合成した重水素標識コレステロールをグリコシル化した後、同じく今年度見出した保護基の除去および精製法を用いて目的化合物を合成する。 (3)22位が水酸化されたコレステロールのグルクロン酸配糖体の合成:前年度に開発した新規側鎖構築法を用いて22位のヒドロキシ基が保護されたコレステロール誘導体を調製し、(1)で見出した条件によりグリコシル化反応を行った後、今年度見出した保護基の除去および精製法を用いて目的化合物を合成する。 (4)植物投与試験:(2)で合成した標識体をジャガイモ毛状根に投与し、投与化合物の代謝過程を明らかにする。 (5)酵素試験:今年度合成したコレステロールのグルクロン酸配糖体を基質に、(3)で合成した誘導体を生成物標品として用いて、22位水酸化酵素の立体選択性を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
【理由】前年度の繰越金があったためである。今年度はこれに従い、採択時の交付予定額よりも多い額の研究費を執行したが、若干の余剰が生じた。 【使用計画】次年度に物品費として使用する。
|