研究課題
近年、セレン化合物が筋萎縮性側索硬化症(ALS)やCOVID-19感染症の治療候補薬として注目されており、セレン創薬への期待が高まっている。しかし、セレンには強い毒性があり、副作用の克服が医薬品応用へのボトルネックとなっている。そこで本研究では、生体親和性が高いと期待される生体分子セレンアナローグを用いることで、セレンの毒性の問題を克服し、セレン創薬の実現に向けた基礎データを収集することを計画した。具体的には、研究代表者が最近報告したトレオース骨格をもつセレノ糖およびセレノ核酸誘導体の合成に関する研究成果を基盤として、その光学活性体および種々の核酸塩基を導入した4'-セレノトレオ核酸誘導体を新たに多数創製し、その構造活性相関や細胞毒性を調べることを目的としている。2022年度は研究の初年度であり、4-セレノトレオース誘導体のエナンチオマー(L体)の合成を検討した。研究代表者の研究室での以前の研究ではラセミ体の合成に成功していたが、研究計画に従ってエナンチオマーの合成を検討した。検討の結果、L-酒石酸を出発原料とする新たな合成ルートを確立し、目的とする4-セレノ-L-トレオース誘導体を約10種類合成することに成功した。合成したセレノ糖は、NMR解析とMS分析によって構造を決定し、光学純度に関してもキラルカラムを用いたHPLC分析によって光学純度が100%であることを確認した。さらに、プメラー転位反応を用いて合成した4-セレノ-L-トレオース誘導体に核酸塩基を導入することについても検討を始め、塩基導入の反応条件の検討も進めることができた。
2: おおむね順調に進展している
計画では、セレノ糖を10種類程度、各100 mg程度合成する予定であった。実際に、誘導体を含めて10種類以上の新規セレノ糖を合成することができた。合成物の量に関しても、目標とした100 mg以上を得ることができた。既に合成経路を確立できたので、今後はグラムスケールの合成が可能である。合成した化合物の同定については、計画ではX線構造解析も行う予定であったが、良い結晶を得ることができず、今のところはX線構造解析による構造決定はできていない。
研究2年目は、1年目に合成した4-セレノ-L-トレオース誘導体を用いて、これに各種の核酸塩基を導入することで、4'-セレノ-L-トレオ核酸誘導体の合成を検討する。核酸塩基としては、6-クロロプリンなどのプリン塩基やウラシルやチミンなどのピリミジン塩基の導入を検討する。目標として、約10種類の4'-セレノ-L-トレオ核酸誘導体をそれぞれ50 mg程度合成する計画である。核酸塩基の導入反応では、収率が悪いこと(約60%)、α/βアノマー選択性を制御することが難しいことがこれまで問題であった。本研究では、反応の遷移状態をab initio計算で求めるなどして、反応条件の検討をより効率的に行なう計画である。2023年の8月から9月にかけて、合成したサンプルの生物活性試験を行うことも計画している。
化合物の合成が計画よりも順調に進んでいるため、当初予定していた試薬類の購入を節約することができた。次年度に繰り越した予算については、本研究に関する国際共同研究を進めるための旅費として使用したいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
Molecules
巻: 28 ページ: 3607~3607
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Chalcogen Chemistry: Fundamentals and Applications
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Organochalcogen Compounds: Synthesis, Catalysis, and New Protocols with Greener Perspectives
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10.1016/B978-0-12-819449-2.00004-5