研究課題/領域番号 |
22K05469
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
松儀 真人 名城大学, 農学部, 教授 (90324805)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 不斉配位子 / 立体配座 / 反応場 / エントロピー / フルオロフィリック効果 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「フルオロフィリック効果に依拠したアンチエントロピー制御型の反応場形成を達成し、従来とは異なる反応選択性を可能とする新たな合成基盤技術を開拓すること」である。 初年度は、目的達成に向けてエントロピー的に不利な配座固定が期待できる触媒合成、及びその反応性と立体選択性について不斉Henry反応を用いて精査し、以下の成果を得た。 ① 配位子の隣接位にフルオラスタグを二点導入した光学活性なビスオキサゾリン配位子を4種類合成した。これらは配位子上の自由回転可能な置換基上に2つのフルオラスタグを隣接させたもので、フルオロフィリック効果に起因する分子内スタッキングを介して配座固定が期待できる不斉配位子である。② フルオラスビスオキサゾリン配位子のコントロール配位子として、フルオラスタグ(C4F9基)の代わりに同じ長さのアルキル鎖(C4H9基)を同位置に導入した配位子を合成した。③ フルオラスビスオキサゾリン配位子のコントロール配位子として、フルオラスタグを有していない無置換の配位子を合成した。④ 4-C4F9-Bn基を有する配位子存在下、Cu(OAc)2 を用いた不斉Henry反応は、96%の変換率、76%eeの立体選択性にてS体のアルドール付加体を与えた。⑤ 2-C4F9-Ph基を有する配位子存在下での不斉Henry反応では、配位子の不斉源部位が④のベンジル型配位子と同一の絶対配置を有する不斉源を用いたにもかかわらず、同一条件下において主生成物の立体配置は逆転し、53%eeで R 体のアルドール付加体を優先して与える事がわかった。⑥ この生成物の立体選択性が逆転する現象は、無置換コントロール配位子を用いた同一条件下での不斉Henry反応との比較(27%ee,S体)においても観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位子へのフルオラスタグの二点導入により、同一不斉源を有する触媒使用条件下において、不斉誘起の方向を逆転させる“特異な合成反応系”を探索することが、初年度の目的のひとつであった。触媒配位子中のフルオラスタグ同士によるフルオロフィリック効果が期待できる「フルオラスタグを二点導入した新規ビスオキサゾリン不斉配位子」を4種類合成することに成功した。それぞれの配位子を用いて不斉Henry反応において、立体選択性と不斉誘起の方向に関して精査した結果、2価のCuを中心金属とした(4S,4'S)-ビスオキサゾリン不斉配位子使用時のHenry反応において、作業仮説通り、配位子上の二箇所の水素部位をC4F9基に置き換えるだけで、同一不斉源の配位子を用いているにもかかわらず、アルドール付加生成物の絶対配置が逆転する現象を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
フルオラスタグを二点導入した光学活性なビスオキサゾリン配位子の使用により、「同一不斉源の配位子を用いているにもかかわらず、アルドール付加生成物の絶対配置が逆転する興味深い結果」が不斉Henry反応において確認できたので、今後は、同反応を用いて他の基質についてもscope & limitationを調べると共に、非フルオラス配位子を用いたコントロール実験を行い、立体選択性及び反応性についてデータを取る。さらに、不斉Henry反応だけではなく、Diels-Alder反応に関しても不斉認識能力について精査し、同一不斉源にて効率的に不斉中心のつくり分けを可能にする「触媒ペア:フルオラス触媒及び非フルオラス触媒のペア」を見いだすと共に、より高いエナンチオ選択性を与える配位子構造への改良も試みる。 また、よりリジッドな配座形成が期待できる三座配位のピンサー型C2対称フルオラス配位子を新たに合成し、本配位子を用いた不斉Henry反応の立体選択性についても詳細に検討する。
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