研究課題
【方法】S. aureus No.29株 (SEA産生株) 由来のSEAファージにコードされる遺伝子が検出されたMVsを破壊した後、SEA非産生株に添加して、MVsを介したSEA遺伝子の伝播について検討した。菌体の遺伝子発現とMVsの性状との関係を明らかにするために、No.29株の遺伝子発現パターンを網羅的に解析した。遺伝子発現パターンの結果をもとに、6 (対数増殖期)、17 (定常期) および24 (死滅期) 時間のNo.29株の培養上清から各MVsを調製し、その性状を比較解析した。また、ポリフェノールを添加した培地でNo.29株を培養して調製したMVsの性状について、SDS-PAGおよびnano-LC-MS/MSを用いて解析した。【結果】EDTA処理にて破壊したNo.29株由来のMVsをSEA非産生株に添加して、培養したところ、SEA非産生株の一部にSEA遺伝子が検出され、SEA産生能を有することを確認した。MVsの性状に関わることが予想されるS. aureusの病原因子であるseaおよびRNAIIIは4時間、膜流動性に関与するpsmα1およびpsmα3は8時間で発現量が最大となり、細胞膜合成関連遺伝子であるdltD、mprF、pgsAおよびcls2の発現量は、6時間で減少した。異なる増殖段階のNo.29株の培養上清よりMVsを調製し、粒子径を測定したところ、差は認められなかった。しかし、培養17時間で調製したMVsは安定性が高く、自己溶菌酵素であるbifunctional autolysinやタンパク質のフォールディングに関与するchaperonin GroELが多く内包されていた。また、ポリフェノールを添加した培地で調製したMVs中で内包量が減少したタンパク質を解析したところ、血液凝固作用を有する病原因子であるstaphylocoagulaseなどが同定された。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初の計画通り目標を達成できている。EDTA処理にて破壊したNo.29株由来のMVsをSEA非産生株に添加して培養したところ、SEA遺伝子が伝播することを確認できたことから、当初の予定通り、SEAファージが伝播する株としない株の全ゲノムを解読する。また、異なる増殖段階のNo.29株の培養上清より調製したMVsを細胞に添加し、MVsの毒性について調べる予定である。
本年度は、主に以下の2項目について研究を進めていく予定である。1) 異なる増殖段階のNo.29株の培養上清およびポリフェノールを添加した培地で調製したMVsを細胞に添加し、MVsが誘導する炎症関連遺伝子の発現量の変動について明らかにする。2) SEAファージが伝播する株としない株の全ゲノムを解読し、SEAファージの宿主菌への吸着メカニズムについて検討する。
No.29株由来MVsの内包タンパク質に対するポリフェノールの影響を調べるために、LC-MS/MSによるプロテオーム解析を行う予定であったが、nano-LC-MS/MSによる解析を実施したことから、必要な試薬等の購入時期を遅らせた。また、学会発表が対面ではなくオンライン発表になったことで、旅費の一部に余剰が生じた。本年度は、昨年度に引き続き、研究費をMVsを調製するために必要な遠心式限外ろ過フィルターなどの消耗品費等に使用する。また、No.29株由来MVsの毒性を評価するために、細胞培養などに必要な消耗品費に使用する予定である。
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Cells
巻: 13 ページ: 387
10.3390/cells13050387
Frontiers in Microbiology
巻: 14 ページ: 1328055
10.3389/fmicb.2023.1328055