研究課題
本研究では、タンパク質の摂取不足によって増加する肝IRS-2が肝脂質蓄積に果たす役割の解明を目指す。本年度は、以下の2点について検討を行った。1) 低タンパク質食摂取による肝IRS-2量の増加がインスリン感受性の亢進に与える影響について検討した。肝IRS-2量は、ラットに低タンパク質食を1日摂取させただけで増加することが分かっている。そこで、5~6週齢で雄性の野生型(WT)とIRS-2欠損(KO)ラットについて、標準食(15%タンパク質食:15P)を給餌する群と低タンパク質食(5%タンパク質食:5P)を給餌する群の2群に分けて11日間飼育した後、インスリン負荷試験を行った。その結果、WTラットでは、15P摂取と比べて5P摂取で、インスリンに応答した血糖値の降下が大きかった。他方、KOラットでは、インスリンによる血糖値の降下は15Pと5P摂取で同程度であった。したがって、タンパク質摂取不足によって起こるインスリン感受性の亢進にIRS-2は必要であると示唆された。2) 低タンパク質食摂取による肝IRS-2量の増加が肝臓の脂質代謝に与える影響を解析するために、1)と同様に14日間飼育したWTとKOラットの肝臓を用いて、中性脂肪量とイムノブロット法により脂質代謝調節因子の量を測定した。その結果、5P摂取により、肝中性脂肪量はWTとKOラットで増加したが、その増加の程度はWTと比べてKOで抑えられていた。また、脂肪酸合成に係わる酵素の量がWTと比べてKOラットで減少することが分かった。したがって、IRS-2は低タンパク質食摂取による肝脂質蓄積に必要であることが明らかとなった。また、低タンパク質食摂取による肝脂質蓄積には、IRS-2を介した脂肪酸合成の調節が関与することが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りに実験は進められた。しかし、実験動物飼育スペースの問題から、一度に繁殖できるKOラットの頭数が限られてしまい、今後研究の遂行に支障が出る可能性を危惧している。
まず、現在進めているIRS-2を肝細胞で人為的に増加させる実験系を確立するために必要な、rat IRS-2発現アデノウイルスの作製を行う。そして、このアデノウイルスを、WTラットの肝臓から調整した初代培養肝細胞に感染させて、IRS-2を強制発現させた後、肝細胞中の中性脂肪量を測定する。これによって、タンパク質の摂取不足とは関係なく、肝IRS-2過剰発現によって肝臓脂質蓄積が誘導されるか検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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https://shigen.mine.utsunomiya-u.ac.jp/