研究課題/領域番号 |
22K05495
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
村上 明 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10271412)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ファイトケミカル / アリルイソチオシアネート / ストレス / 交差耐性 / 防御機構 / ホルミシス / RGM1細胞 / 作用メカニズム |
研究実績の概要 |
これまでに実施されたファイトケミカルの機能性研究では、酸化ストレスに対する抗酸化酵素の誘導など、ストレスの種類に特異的な防御機構の発現に着眼されてきた。しかし、生物がストレス暴露される場合、複数種のストレスが同時に起こることもあることから、誘導される防御機構にも想定外のものが存在することが示唆される。ワサビの辛み成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)は生体異物であり、酸化ストレスを与えることから、解毒酵素や抗酸化酵素の誘導作用を持つことはこれまでに広く知られている。そこで本研究では、AITCで前処理したRGM1ラット胃粘膜上皮細胞がpHストレスに対しても耐性を示すのか検討を行なった。pH 4.6での後処理の1 hr前からAITC (2.5-15 uM)で1 hrの前処理を行った細胞では、前処理を行わない細胞と比較して、前処理の濃度依存的な細胞保護効果が観察された。一方で、アルカリ性ストレス条件下 (pH 9.8)ではAITC前処理による有意な細胞保護効果は認められなかった。さらに、炭酸代謝を両方向に触媒することでpH調節に関与する分子であるcarbonic anhydrase (CA)の発現量についても検討した。細胞保護効果がみられた低pH条件において、後処理の24 hr前にAITC (15 uM)で前処理を行なった細胞では、前処理なしの細胞と比較して、細胞膜貫通型CAの1種であるCA ⅨのmRNA発現量が有意に増加した。また、細胞質内に存在するCA Ⅶでも増加傾向がみられた。種類の異なるストレスに対する耐性は交差耐性と呼ばれるが、上記の成果は、ファイトケミカルが交差耐性を示す初めての例であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で掲げている「ファイトケミカルが交差耐性を示す例を見出す」という課題について初年度から達成できたことは意義深いと考えている。本研究では胃粘膜上皮細胞を用いていることから、まずは後処理のストレスとして、胃の粘液による保護機能が低下した際などに生じやすいと想定されるpHの低下によるストレスを選択した。こうした交差耐性に関する特性は、出芽酵母などでは知らているが、その特性を動物細胞でも観察できた意義は大きいと考えている。しかしながら、その作用機構については、carbonic anhydraseの関与が示唆できた半面、AITCによる本酵素の誘導機構についてはまた解明できていない点は、年間成果として少し不十分であると捉えている。いずれにしても、本成果についてはすでに学会でも発表しているが、現在、論文を執筆中であり早急に公開したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず最も重要な点として、AITCによるcarbonic anhydrase誘導機構についての解明を急ぐ。また、AITCを含む食品成分が交差耐性を示す可能性をさらに拡充するため、次年度は浸透圧にも着目する。これは、人工甘味料に代表される、難吸収性の食品成分が消化管での浸透圧ストレスを介して生理機能を発現している可能性を探求するものであり、研究課題として独創性が高いと捉えている。浸透圧ストレスはASK3を介してMAPKの活性化を誘導することが知られているが、こうした細胞内シグナル伝達機構は食品因子の既知の様々な生理機能発現機構に関連している。したがって、難吸収性の食品機能性成分の新しい作用機構として、高浸透圧ストレスに着目することは意義があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に実施しようとしていた実験がトラブル(細胞のコンタミネーション)で実行することができず、当該試薬用の費用(73,550円)を支出することができなかった。
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