研究課題
セラミド骨格を特徴とするスフィンゴ脂質は食品の由来により極性基の異なる様々なクラスが存在する。我々は植物に由来するブドウ糖の結合したグルコシルセラミド(GlcCer)摂取が炎症関連大腸疾患に対する予防効果を示し、セラミド骨格およびGlcCerそのものが重要な働きを持つことを報告してきた。本研究では、食品の由来により異なるスフィンゴ脂質クラスが大腸の炎症等に及ぼす影響を培養腸細胞と大腸疾患モデル動物を用い調査する。今年度は大腸疾患のひとつとして大腸異常腺窩巣(ACF)に対する各種スフィンゴ脂質の効果を比較した。ACFは1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)をBALB/cマウスに腹腔内注射することにより誘導した。実験1では、極性基としてリン酸コリンを持つスフィンゴミエリン(SM)とアミノエチルホスホン酸を持つセラミドアミノエチルホスホン酸(CAEP)を比較した。それぞれのスフィンゴ脂質は卵黄とタコから精製を行った。実験2では、キノコから調製されたGlcCerとセラミドを比較した。実験1において、DMH処理はマウス大腸においてACFを形成し、SMまたはCAEPの摂取はACF形成を抑制した。その抑制効果はSMがCAEPより強かった。また、DMH処理はマウス大腸粘膜における炎症及びアポトーシスを誘導し、SMまたはCAEPの摂取はそれらの誘導を抑制した。ACFと同じく、その抑制効果はSMがCAEPより強かった。実験2において、GlcCerまたはセラミド摂取はDMH処理により誘導されるACF形成を抑制し、その抑制効果は同程度であった。一方、DMH処理により誘導される炎症及びアポトーシスに対し、GlcCer摂取は抑制効果を示したが、セラミド摂取はほとんど抑制しなかった。実験1と2から、in vivoにおいて、スフィンゴ脂質の腸管における食品機能性は、その極性基に依存する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通り、極性基の異なる4つのスフィンゴ脂質を用いた動物実験を行い、興味深い結果を得ることができた。また、その結果のひとつを論文投稿し掲載されていることから、概ね順調に進展していると判断した。
基本的に当初の研究計画に則り、研究を遂行する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
ACS Food Science and Technology
巻: 3 ページ: 85-91
10.1021/acsfoodscitech.2c00290