研究課題/領域番号 |
22K05509
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
菊地 あづさ 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30452048)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 一重項酸素 / 食用色素増感分子 / キサンテン系色素 / エリスロシンB / インドール誘導体 |
研究実績の概要 |
食品の酸化には活性酸素種が関わっていることが知られており,特に脂質過酸化に関係する活性酸素種はDNAの損傷や突然変異,細胞のがん化,老化に深く関与することが報告されており,食品の品質劣化防止や貯蔵,保存の面からより効果的な酸化防止の手段が求められている。従来の研究はすでに光増感物質から発生した一重項酸素の消去に有効な抗酸化物質の開拓が中心に行われてきた。一重項酸素は体内で発生すれば,その高い酸化力により直ちに酸化反応が進行し,細胞の損傷といったダメージを引き起こす。このため,生体内物質が一重項酸素の光増感剤として作用した場合,生成した一重項酸素を速やかに消去するとともに,一重項酸素の発生そのものを抑制することが重要である。一重項酸素の生成そのものを抑制することについては,研究報告はほとんどないため, 本研究では,食用色素光増感分子からの一重項酸素生成自体を抑制する抑制機構の構築および解明を目的とした.食用タール色素に分類されるエリスロシンB(ERY)は,耐還元性,耐熱性に優れているため,焼き菓子や発酵食品などに添加されるが,光増感分子として作用し,一重項酸素を生成する一重項酸素光増感剤である. 本年度は一重項酸素由来の1274 nm近赤外発光のtime profile測定結果の定量的な解析を行い,一重項酸素をトリプトファンの部分骨格であるインドール(Ind)誘導体はERY 光増感により生成する一重項酸素の生成を抑制することを明らかにした.ERY励起三重項状態のInd誘導体による消光を速度論的に3kqから議論し,電子供与性置換基を有するInd誘導体の生成抑制効果が高いことが分かり,その生成抑制機構は光誘起電子移動によることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エリスロシンBをはじめとするキサンテン系色素が光増感分子となる一重項酸素生成についてインドール誘導体が抑制効果を示すことを一重項酸素由来の1274 nm近赤外発光のtime profile測定およびエリスロシンBの光励起三重項状態の過渡吸収time profile測定の結果を定量的に解析することで明らかにした.この結果は,インドール誘導体が異なる一重項酸素光増感分子に対して一重項酸素の生成を効果的に抑制することを意味しており,一重項酸素生成抑制分子のさらなる開拓につながることが期待されるから.
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今後の研究の推進方策 |
キサンテン系色素の一つであるフロキシンBについてもインドール誘導体が一重項酸素生成抑制分子として機能するか,一重項酸素近赤外発光のtime profile測定および過渡吸収スペクトル測定より解明していく.さらに,インドール誘導体では電子供与性あるいは電子求引性置換基の導入により,一重項酸素生成抑制の効果が異なることが予備実験により示されたため,置換基効果についてさらに検討を進めていく.また,一重項酸素生成抑制機構については,光誘起電子移動あるいはエネルギー移動両方の可能性について,サイクリック・ボルタンメトリー測定およびりん光スペクトル測定によるエネルギー準位から実験的に検討を進めていく予定である.一重項酸素生成抑制機構の解明は,一重項酸素生成抑制に効果的な分子構造に関する知見を得ることにつながる.
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次年度使用額が生じた理由 |
色素を用いた一重項酸素生成抑制効果の評価装置に用いる光学部品(レンズ,ミラー,偏光板,マウント)の購入を予定していたが,近赤外発光測定装置と合わせて使用するキセノン光源の故障により,キセノン光源の購入が必要になり,光学部品の購入を次年度以降としたため.次年度,実験に用いる光学部品(レンズ,ミラー,偏光板,マウント)を購入予定である.
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