本研究においては、小麦や大豆などの植物性食品タンパク質を対象に、量子ビーム小角散乱を中心に光散乱、質量分析、超遠心分析などの構造解析法を用いてタンパク質のナノ集合構造を調べ、テクスチャー測定やレオロジー測定を通じてタンパク質分子の化学的特性や集合構造が及ぼす力学物性への影響を評価するとともに、これらを分子の化学的性質やそれに基づく分子内分子間の相互作用と関連づけて理解することで、分子レベルの構造や相互作用と巨視的な物性を繋ぐリンクを解明し分子論的な見地から食品物性の発現機構を明らかにすることを試みた。 コントラスト変調中性子小角散乱法による小麦タンパク質複合体グルテン中の構造解析を行う目的で、試料となる中性子重水素化小麦タンパク質の量産を目指して重水水耕による小麦の栽培のための条件最適化を行うとともに、重水素化した小麦タンパク質グリアジンの水和凝集体を試料としてJRR-3 SANS-Uにおいて中性子小角散乱測定を行った。その結果、精密な構造解析を行うために必要となる十分な精度の実験結果を得るためには、より多量の重水素化試料を確保する必要があることが明らかとなったことから、重水素化試料の増産を目指して、より効率的な重水水耕栽培システムの構築に向けた検討を進めた。 また、小麦タンパク質の水和凝集体について回転レオメーターを用いた動的粘弾性測定を実施し、試料に添加した塩化ナトリウム量の違いによって動的粘弾性に相違が見られることを明らかにした。 最終年度となる2023年度は、異動に伴い当該研究課題に関する研究活動の遂行が不可能となったため、補助事業を廃止することとなった。
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