研究課題/領域番号 |
22K05513
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
本同 宏成 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (10368003)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オレオゲル / 空間分解拡散散乱法 / 油脂結晶 / ライスブランワックス / 散乱係数 / 構造評価 / 非破壊 |
研究実績の概要 |
トランス脂肪酸や飽和脂肪酸の摂取を減らすため、さまざまな素材を用いたオレオゲルの研究が盛んである。しかしながらオレオゲル構造の非破壊評価方法は確立しておらず、構造を定量的に評価できていない。本研究では、光多重散乱法である空間分解拡散散乱法により、オレオゲルの吸収および散乱係数を測定し、ネットワーク構造の新規評価法とすることを目的としている。 今年度は、得られたオレオゲルの物性評価を中心に研究を進めた。これまでに米糠ワックスを骨格としたゲルを得たが、ワックス濃度による物性の違いがあまり見られなかった。しかしながら、ゲルの作製方法を見直し、冷却過程と溶媒を変えることで、硬さの異なるオレオゲルを得ることに成功した。特に溶媒に異なる種類の植物油を用いることで、一方ではワックス濃度に依存して強度が増すのに対し、もう一方はワックス濃度を上昇させてもゲル強度は変化せず、結晶のネットワークが異なることが示唆された。ワックスの結晶化開始温度は、これらの異なる溶媒中でほぼ違いが見られず、溶解度には大きな違いがないと考えられる。さらに冷却速度を遅くすることで、ゲルの強度が低下することを明らかにした。このように同一のゲル濃度であっても、異なる物性を示すゲルを作り分けられたことは、ワックス結晶の量は同じでありながら異なるネットワーク構造を持つことを意味しており、構造と物性の相関を理解する上で非常に重要である。 最終年度は、顕微鏡による微細構造の観察と同時に、光散乱法による吸収係数測定から、ワックス結晶の分布について理解を深め、物性と構造の関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では、2年目までに顕微鏡を用いた微細構造評価を行い、オレオゲルの物性測定は3年目に行う予定であったが、構造―物性相関を明らかにすることが重要と考え、物性評価を先に行った。 トリアシルグリセロール結晶を用いたオレオゲルにおいて、結晶を多形転移させることでネットワークを変化させ、異なる物性を示すゲルを得る予定であったが、多形転移に伴い気泡が析出し、ゲル中にとどまる様子が確認された。空間分解拡散散乱法では、屈折率が異なり光を散乱させる部位の密度を測定しているが、気泡は光を強く散乱させるため、ゲル内部には気泡が残らないことが望ましい。また不安定多形は溶解度が高く、安定多形は低い溶解度を示すように、異なる多形はそれぞれ異なる溶解度を示すことから多形転移前後で結晶骨格量が変化する。このことも、強度の比較を困難にさせる。そこで本研究では、初期に得られた米糠ワックスを用いたオレオゲルの作製条件を再検討し、異なる硬さを示すオレオゲルの作製に成功した。また使用する溶媒を変えることで、オレオゲル強度を制御することに成功した。キャノーラ油ではゲル強度はワックス濃度に依存して上昇したが、ライスブランオイルではワックス濃度依存性を示さず、ゲル強度は一定であった。これにより、構造と物性の相関を理解することが容易になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はゲル物性を測定する予定であったが、すでに2年目に物性測定について取り掛かった。本来2年目に開始予定であった顕微鏡による微細構造観察に取り掛かる。光学顕微鏡下で結晶化させることにより、結晶密度や形状の違いを明らかにする。また、電子顕微鏡を用いて骨格の微細構造を観察し、油脂結晶のネットワーク構造を明らかにする。電子顕微鏡による構造観察のためには溶媒である植物油を取り除く必要がある。一般的には乳化剤や有機溶媒を用いて液状油を取り除くが、これらの使用は固体脂からなる骨格構造に影響するため、その条件を見出すことが重要となる。顕微鏡観察と同時に、レオメータにより複素弾性率を求め、weak-gel モデルを用いて解析することで、ゲル中の流動単位の充填度、周囲の構造との繋がりを示す配位数を定量的に求める。この配位数と、空間分解拡散散乱法で得られる吸収係数を合わせることで、オレオゲルの構造を非破壊で評価する。
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