研究課題/領域番号 |
22K05521
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 俊治 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60766385)
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研究分担者 |
仲川 清隆 東北大学, 農学研究科, 教授 (80361145)
乙木 百合香 東北大学, 農学研究科, 助教 (90812834)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 過酸化脂質 / 光酸化 / ラジカル / 一重項酸素 |
研究実績の概要 |
「光」は食品や生体中の脂質に対し様々な化学反応を惹起させる。その一つが光酸化であり、例えば食品の品質低下や消費(賞味)期限の短縮等をもたらす。また生体においては皮脂酸化やブルーライトによる視覚障害などが懸念される。それ故、最適な方法で光酸化を抑制(制御)することが様々な領域において、今まさに求められている。光は狭義には約380~780 nmの波長の電磁波と定義され、そして光酸化は光増感分子が波長依存的に光を吸収し、光増感分子の励起を反応起点としてラジカルが発生するType I光酸化と、一重項酸素が発生するType II光酸化に分類される。これまで我々は独自の質量分析法によって、脂質酸化一次生成物(脂質ヒドロペルオキシド(LOOH))の異性体構造を解析し、世界に先駆けてType I光酸化とType II光酸化の見極めに成功してきた。さらに独自に波長別光源を作製し、波長別に脂質の光酸化機構(例:ある波長では特にType II光酸化が進む)を明らかにしつつある。こうした中で申請者らは極最近、上記2種の光酸化機構に全く属さない、すなわち光増感分子の励起を介さない第3の光酸化の存在を新たに見出した。 本研究では、様々な食品や細胞などを用いて光酸化実験を行い、それぞれのサンプルでどのような光酸化反応が生じるかを明らかにすることを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞や食品が光に暴露された際にどのような脂質酸化反応(Type I、Type II、第3の光酸化)が亢進するのかを明らかにすることを目的として実験を行った。 食品においては、過去に我々は鮮魚に実際の売り場を想定して光を照射したところ、リン脂質およびトリアシルグリセロールに結合しているドコサヘキサエン酸が酸化することを認めている。そこで、本研究では、精肉(豚肉)に同様に光照射実験を行ったところ、トリアシルグリセロールは約50倍のType II光酸化が亢進したのに対し、リン脂質ではほとんど酸化が進んていないことがわかった。リン脂質が全く酸化しない点は非常に興味深く、そのメカニズムを今後調べていく予定である。またトリアシルグリセロール酸化に関してはミオグロビンによるType II光酸化を考えており、第3の光酸化の寄与も含めさらに詳細を調べている。 生体には抗酸化リン脂質と言われるプラズマローゲンが存在する。これまで、プラズマローゲン特有のビニルエーテル結合が一重項酸素をトラップすると言われていたが、その詳細なメカニズムは不明のままであった。本研究ではそのメカニズムを明らかにするため、プラズマローゲンを光を用いて一重項酸素酸化を行ったところ、生成したヒドロペルオキシドは速やかに脱水反応を起こすことがわかった。すなわち、プラズマローゲンの一重項酸素酸化の結果生じるのは無害な水と脂肪酸エステルであり、巧妙な一重項酸素クエンチング機構であることがわかりつつある。今後生体で本メカニズムが機能しているかなどを調査していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き食品や生体に光が照射されたときの酸化機構(Type I、Type II、第3の光酸化)を明らかにしていき、必要に応じて寄与している光増感剤の種類なども明らかにしていく。また、それらの酸化機構を惹起する波長を明らかにし、その波長カットフィルムなどを用いて光酸化の抑制効果を検討する。 また昨年度明らかとなったプラズマローゲンの一重項酸素クエンチング機構が生体内などでも機能しているのかを明らかにする。具体的にはLC-MS/MSやGC-MSなどを用いて本機構で特徴的に生成するリン脂質の探索を行う。 上記とは別に、第3の光酸化に関与すると考えられるラジカル生成が、脂溶性の溶媒では証明が難しい状態である。そこで脂溶性溶媒中でのラジカルのESRシグナルを明らかにした上で第3の光酸化についてさらにその詳細を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な機器の製造や標準物質の合成が予定より上手く進んだため。次年度の研究の充実化に充てる。
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