研究課題/領域番号 |
22K05524
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
田中 沙智 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (90633032)
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研究分担者 |
真壁 秀文 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90313840)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プロシアニジン / ガレート / 樹状細胞 / TLR7 / 炎症 |
研究実績の概要 |
ウイルスのRNAを認識するToll-like receptor 7(TLR7)は、自己の核酸も認識して炎症を誘発し、自己免疫疾患の発症に関与することが報告されている。これまで研究代表者は食品に含まれるポリフェノール類の一つプロシアニジンB2(PCB2)ガレートがTLR7シグナルを抑制することを見出している。そこで本研究では、PCB2ガレートのTLR7シグナル抑制メカニズムを明らかにし、生体内におけるPCB2ガレートの疾患予防効果を検証する。今年度は、TLR7シグナルにおけるPCB2ガレートの制御因子を明らかにするために、マウスの骨髄細胞より誘導した樹状細胞を用いて検証した。一般に、樹状細胞でのTLR7を介したサイトカイン産生誘導には、TLR7リガンドが細胞内に取り込まれるエンドサイトーシスおよびエンドソーム内の酸性化が必要である。そのため、PCB2ガレートのエンドサイトーシスに対する影響を評価したところ、PCB2ガレートはエンドサイトーシスに対して影響を与えないことが示された。また、エンドソーム内の酸性化についてpHrodoを用いて検証したところ、PCB2ガレートはエンドソーム内の酸性化を抑制することが示された。さらに、PCB2ガレートがエンドソームの酸性化に重要なv-ATPaseを抑制すると予想し、v-ATPaseの活性化剤であるcAMPをPCB2ガレートと共に樹状細胞に添加したところ、PCB2ガレートの処理で低下するサイトカイン産生はcAMPの添加によって有意に増加した。以上より、PCB2ガレートはv-ATPaseの阻害を介してエンドソーム内の酸性化阻害し、TLR7シグナルによるサイトカイン産生を制御することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の当初の予定としては、骨髄細胞より誘導した樹状細胞を用いて、TLR7シグナルにおけるPCB2ガレートの制御因子を明らかにすることを計画していた。PCB2ガレートの作用点としてエンドサイトーシスおよびエンドソームの酸性化であると予想し、マウスの骨髄細胞より誘導した樹状細胞を用いて検証した。結果として、PCB2ガレートはエンドソームの酸性化を抑制することが示された。また、エンドソームの酸性化を活性化する薬剤を使用したところ、PCB2ガレートによるTLR7シグナルの抑制効果はキャンセルされることを明らかにした。以上より、当初予定していた実験が完了し、有望な結果を得られていることから、概ね順調に研究が進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
経口投与したPCB2ガレートについて生体内での抗炎症効果を明らかにするために、TLR7リガンドのイミキモドで誘発する乾癬モデルマウスを用いて検証する。マウスにあらかじめPCB2ガレートを経口投与した後、背中にイミキモドを塗布することによって乾癬を誘導させて、下記の実験を実施する。 イミキモドを背中に塗布してから7日間、マウスの皮膚の状態を観察し、皮膚炎のスコアリングと病理組織学的解析を行う。乾癬の発症頻度・症状がPCB2ガレートの投与で改善することを確認する。皮膚の炎症部位においては、炎症性の細胞が皮膚に浸潤し、炎症性サイトカインが過剰産生されている点が特徴である。また、イミキモドで誘発した乾癬の部位について、経時的に皮膚のサンプリングを行う。皮膚での炎症性サイトカインの遺伝子を定量PCRで、タンパク質の発現をウエスタンブロッティング法で解析する。さらに、PCB2ガレートによる樹状細胞のTLR7シグナルの抑制を介した乾癬の軽減効果を確認するために、エンドソームの酸性化を促進させる薬剤をマウスに投与し、PCB2ガレートによる乾癬軽減効果がキャンセルされることを証明する。 以上の実験により、PCB2ガレートが樹状細胞のTLR7のシグナル抑制を介して、乾癬の症状を軽減することが明らかになる。
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