近年、腸内細菌叢と疾病・健康との関連性が指摘されており、腸内細菌叢の代謝産物が宿主であるヒトの健康に寄与していることが明らかとなっている。腸内細菌叢の構成バランスは個々人によって異なるが、腸内細菌叢や腸内発酵による代謝産物であるポストバイオティクスが、宿主の腸内環境を含む生体機能全体に影響を与え、結果として再び腸内細菌叢の構成に影響する腸内生態系を形成している。本研究では、腸内生態系を考慮したヒト腸内細菌叢モデルの最適化とポストバイオティクスの評価系の構築を目的とした。 ヒト腸内細菌叢モデルを最適化するため、市販の培地に加えて既報の培地組成を参考に、様々な培養条件で得た培養液中の細菌叢構成および短鎖脂肪酸分析を行った。培地検討の結果、Enterobacteriaceaeの数をヒトの糞便検体と同程度まで抑えられた培地は酢酸、吉草酸、イソ酪酸、イソ吉草酸といった脂肪酸が含まれていることから、Enterobacteriaceaeが死滅しやすい環境にあったため、糞便検体と同程度までEnterobacteriaceaeの増殖を抑えられたと考えた。多様度指数の解析では、培養スターターとして用いた糞便細菌叢によって多様度が高い培地が異なった。また、ポストバイオティクスの評価として、腸管上皮細胞株であるHT29-MTX細胞を用いてバリア機能の指標としてムチン(Muc2)、オクルディン(OCLN)、クローディン(CLDN)、ZO-1のmRNA発現量について評価した。短鎖脂肪酸を腸管内で存在しうる60 mM酢酸、20 mMプロピオン酸、20 mM酪酸の混合物として24時間作用させたところ、MUC2とZO-1の発現量を増加させることでバリア機能を増強することが示唆された。腸炎のマーカーとして知られるCLDNは短鎖脂肪酸により発現量が低下する傾向にあった。OCLNの発現量に変化はなかった。
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