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2023 年度 実施状況報告書

スフィンゴ脂質の糖鎖型に依存的な種子サイズ制御機構の解明とゲノム育種利用

研究課題

研究課題/領域番号 22K05553
研究機関埼玉大学

研究代表者

石川 寿樹  埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20598247)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードスフィンゴ脂質 / 糖鎖型 / 種子サイズ / 糖転移酵素
研究実績の概要

グリコシルイノシトールホスホセラミド (GIPC) は植物に最も豊富に含まれるスフィンゴ脂質クラスであり、固有な糖鎖構造が多様化している。本研究では、シロイヌナズナの種子特異的に存在するN型GIPCの機能解明を目指して研究を行った。
N型GIPC欠損変異体gint1における種子形成異常の表現型がGIPCの糖鎖型に固有かどうか検証するため、シロイヌナズナ種子中のH型GIPC含量を変化させ、gint1と表現型を比較することを目指した。H型糖鎖の合成を担うGMT1の機能欠損は不稔となるため、種子特異的に発現するダイズGlycininプロモーターを用いてGMT1を過剰発現または発現抑制させた系統を作出し、ホモ系統を4ラインずつ確立した。乾燥種子のスフィンゴ脂質組成を分析したところ、過剰発現系統ではH型GIPC含量はわずかにしか増加せず、N型GIPC含量が著しく減少していた。また、発現抑制系統では、H型GIPCはわずかな減少に留まった一方で、N型GIPC含量は有意に増加していた。このことから、シロイヌナズナ種子では、H型GIPC含量が一定の範囲に保たれるように基質レベルで調節する機構が存在することが推測され、種子におけるH型およびN型GIPCの合成は異なる代謝制御下にあると考えられた。
また、gint1変異体の種子表現型を詳細に解析したところ、種子の肥大、欠落および委縮といった表現型は花粉および胚の遺伝子型に起因せず、母性遺伝によって伝播することが明らかになった。GINT1の発現部位をデータベースで精査したところ、これまでにわかっていた発達後期の種子に加え、雌性生殖組織や発生初期の種皮でも発現していることがわかった。これらの結果から、gint1に特徴的な種子表現型は、これまで考えられていた種子の成熟期ではなく、受精前また受精直後の母性組織における機能の喪失に起因するものと考えられた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

種子特異的なH型GIPCの過剰発現および発現抑制系統では、H型よりもむしろN型糖鎖の含量が大きく変化するという予想外の結果が得られた。これは、植物種子におけるGIPC糖鎖型の選択的代謝調節機構の存在を新たに示唆するものである。今後これらの系統を用いた研究計画を新たに計画している。
また、gint1変異体のレシプロカル実験により、表現型の原因が母性組織に由来することが明確となった。発現組織をより詳細に解析するためのレポーター系統の作出が予定より遅れているものの、次年度には詳細な解析を行う予定である。一方、母性組織におけるN型糖鎖の重要性を検証するため、細胞・組織特異的プロモーターによるGINT1相補系統の作出を新たな実験計画に追加した。こちらは植物系統の確立が順調に進んでおり、次年度に表現型の解析を行う計画となっている。

今後の研究の推進方策

種子特異的なGIPC糖鎖型改変実験では予想外の結果が得られたものの、種子におけるGIPC合成制御機構について新たな知見を得ることができた。確立した系統の種子形成過程におけるGIPC合成関連遺伝子の発現レベルを詳細に解析し、遺伝子発現レベルでの調節機構を解明する。また、GINT1の種子における機能性について、これまでもっとも発現レベルの高い種子発達後期が重要であると考えられてきたが、受精前または受精直後の母性由来組織が重要であることが見出された。これらの組織におけるGINT1の発現パターンおよび機能性を検証するため、GINT1プロモーターにGUSもしくはGFPを連結したレポーター発現系統や、各組織・細胞に特異的に発現するプロモーターにGINT1のコード領域を連結した局所的相補系統を用いて、シロイヌナズナの種子形成過程におけるN型GIPC糖鎖の生物学的機能を明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

gint1変異体および種子特異的GMT1発現改変植物の種子形成過程における遺伝子発現の定量解析および時空間的解析について、植物材料の準備遅れにより次年度に行うように計画を変更したため、これにかかる費用を繰り越す。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Characterization of Unique Eukaryotic Sphingolipids with Temperature-Dependent Δ8-Unsaturation from the Picoalga <i>Ostreococcus tauri</i>2024

    • 著者名/発表者名
      Ishikawa Toshiki、Domergue Frederic、Amato Alberto、Corellou Florence
    • 雑誌名

      Plant And Cell Physiology

      巻: - ページ: in press

    • DOI

      10.1093/pcp/pcae007

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Degradation of glycosylinositol phosphoceramide during plant tissue homogenization2023

    • 著者名/発表者名
      Takai Yoshimichi、Hasi Rumana Yesmin、Matsumoto Naoko、Fujita Chiho、Ali Hanif、Hayashi Junji、Kawakami Ryushi、Aihara Mutsumi、Ishikawa Toshiki、Imai Hiroyuki、Wakida Mayuko、Ando Kazuya、Tanaka Tamotsu
    • 雑誌名

      The Journal of Biochemistry

      巻: 175 ページ: 115~124

    • DOI

      10.1093/jb/mvad080

    • 査読あり
  • [雑誌論文] MHP1 and MHL generate odd-chain fatty acids from 2-hydroxy fatty acids in sphingolipids and are related to immunity in Arabidopsis thaliana2023

    • 著者名/発表者名
      Ushio Marina、Ishikawa Toshiki、Matsuura Takakazu、Mori Izumi C.、Kawai-Yamada Maki、Fukao Yoichiro、Nagano Minoru
    • 雑誌名

      Plant Science

      巻: 336 ページ: 111840~111840

    • DOI

      10.1016/j.plantsci.2023.111840

    • 査読あり
  • [学会発表] リピドミクスでひも解く植物スフィンゴ脂質の代謝と機能2023

    • 著者名/発表者名
      石川寿樹
    • 学会等名
      植物学会第87回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Sphingolipid ceramide unsaturation in plants: gene evolution, analytical chemistry, and biological functions2023

    • 著者名/発表者名
      Ishikawa T
    • 学会等名
      The 9th Asian-Oceanian Symposium on Plant Lipids
    • 国際学会
  • [学会発表] Glycosphingolipids are essential for plant development but not for cell proliferation in Arabidopsis thaliana2023

    • 著者名/発表者名
      SuzukiY, Yamaguchi M, Kawa-Yamada M, Ishikawa T
    • 学会等名
      The 9th Asian-Oceanian Symposium on Plant Lipids
    • 国際学会
  • [学会発表] 異なる糖鎖型をもつ植物スフィンゴ糖脂質の特異機能2023

    • 著者名/発表者名
      石川寿樹、平井晴菜、戸川昂祐、鈴木雄介、白木夕姫乃、山口雅利、川合真紀
    • 学会等名
      第35回植物脂質シンポジウム

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公開日: 2024-12-25  

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