研究課題/領域番号 |
22K05557
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉本 美海 (橋本美海) 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (70437755)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | プラスチド(色素体) / 細胞内輸送 / アグロバクテリウム |
研究実績の概要 |
植物病原菌アグロバクテリウムは植物へ感染すると感染部位に腫瘍を形成する。植物ホルモンであるサイトカイニン(CK)は通常植物の細胞分裂に関わるが、アグロバクテリウム自身もCKの合成遺伝子tmr)を持ち、感染時にこの遺伝子を植物の核ゲノムに組み込む。このtmrは植物細胞内で翻訳され色素体へと運ばれるが、通常色素体に移行するタンパクが持っている移行シグナルであるトランジットペプチド(TP)は持たない。Tmrの色素体移行によって植物自身の正常なホルモン生産が阻害され、腫瘍形成が誘導されるので、この移行メカニズムの解明は、病原体がどのような戦略で植物に感染するかを理解するためにも重要である。 そこで、Tmrが植物細胞内で相互作用するタンパク質を同定することにより、色素体への移行経路を明らかにすることを試みた。具体的な手法として免疫沈降法、Y2H法、近接標識法の3つの方法によりTmrの相互作用因子をシロイヌナズナのタンパク質から探索した。これまで免疫沈降法により、TPを持つタンパク質が色素体へ移行する際に必要だと考えられている因子がいくつか単離された。さらに、現在進めている近接標識法でもこれらと重複するものが単離されており、有力な候補だと考えている。つまりTmrはTPを持つ色素体移行タンパク質が色素体移行の時に利用している因子と相互作用し、TPをもつタンパク質と類似した経路で色素体に移行する可能性が考えられた。 また、シロイヌナズナのcDNAライブラリーを用いたY2H法ではこれらとは全く異なる因子が単離されている。今後は各手法で単離されたTmr相互作用因子の機能欠損変異体を用いて、Tmr-GFPの色素体への局在が変化するものを調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tmrタンパク質と相互作用するタンパク質を単離することにより、Tmrの色素体移行経路を明らかにしようと考えていたが、それは前提条件として、Tmrが翻訳されてタンパク質として運ばれると考えていたからである。しかし、tmrがmRNAとして運ばれる可能性が否定できないので、その可能性について検証した。色素体における翻訳阻害剤であるスペクチノマイシン処理を行い、その条件でもTmr-GFP融合タンパク質が色素体に局在するのかを調べた。2週間のスペクチノマイシン処理により、Tmr-GFP形質転換植物では個体サイズが小さくなり、白化も見られたが、Tmr-GFPの蛍光は色素体で検出された。これにより、前提条件は間違っていないことが確認できた。 これまでタンパクX はTmrと相互作用する因子として免疫沈降法を用いて単離されたが、BiFC法ではTmrとの相互作用を示す蛍光が確認できなかった。このタンパクXには分子内に基質結合ドメインと、このドメインが基質と結合するのを阻害するドメインが存在する。 このため、この阻害ドメインによってTmrとの相互作用が検出されにくくなっている可能性が考えられた。そこで基質結合ドメインのみを使用してBiFCをおこなったところ、Tmrとの相互作用を示す蛍光を確認することができた。このタンパクXはTPを持つタンパク質が色素体のTOC/TIC複合体を通って運ばれる際に必要な因子として知られていたため、TPをもつタンパク質と類似した経路で色素体に移行する可能性が考えられた。 また、Y2H法では101遺伝子の産物がTmr相互作用因子の候補として単離されていたが、今年はそのうち44遺伝子について完全長CDSを作製し、再びY2Hを行った結果、35遺伝子は候補から排除、9つの遺伝子については相互作用が再確認された。このうち4遺伝子についてはBiFCによる相互作用も検出できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、まずはTmrの相互作用因子として最も有力なタンパクXがTmrの色素体移行にかかわっていることを検証したい。タンパク質Xの基質結合ドメインのみを含む配列とTmrとの相互作用は色素体の外、タンパク質X基質結合ドメインにTPを結合したものとの相互作用は色素体内でおこなわれることをBiFCなどの手法を用いて調べる予定である。さらに、タンパクXの機能欠損変異体で、Tmr-GFPの局在が色素体で見られない(あるいは非常に弱いシグナル)であることを調べる。これらが検証できれば、タンパクXがTmrの色素体移行を担うことを証明できるため、論文執筆を進める。 さらに、免疫沈降法ではタンパクXの他にもTPを持つタンパク質が色素体を通過する際に必要な因子が多数単離されているため、これらの機能欠損株を用い、Tmr-GFPの色素体局在に変化が現れるかどうかを検証する予定である。また、完全長CDSを用いたY2H, さらにBiFCによってTmrとの相互作用が確認できた4つの候補に関しては、機能未知のタンパク質や転写因子をコードするものも含まれている。これらについても機能欠損変異体でのTmr-GFPの局在を調べる予定であり、もしこれが検証できれば、これまで知られていない、タンパク質の色素体への移行メカニズムを明らかにできるかもしれないと考えている。 さらに、近接標識法では免疫沈降法やY2H法では検出できないような一過的な結合やごく少量の相互作用因子の検出も可能となると考えられる。使用する植物のエイジ、タンパク質抽出、Tmr-GFP遺伝子発現誘導、ビオチン標識などの条件を検討しているところであるが、こちらについても継続して進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、執筆中の論文の掲載料として保存している。また、今年度の国際学会の費用負担のため。
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