研究課題/領域番号 |
22K05561
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
上村 聡志 東北医科薬科大学, 医学部, 講師 (10399975)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / 低温ストレス / 糖転移酵素 / 細胞膜の流動性 |
研究実績の概要 |
真核生物のモデルとなる出芽酵母の増殖に適した温度は25~30℃であるが、15℃(弱低温)でもその速度は低下するものの、増殖は可能である。しかし、細胞膜脂質であるスフィンゴ糖脂質を合成できない出芽酵母は明らかに弱低温環境下での増殖が低下する。本研究の目的は、弱低温環境下(出芽酵母:15℃、動物細胞:30~32℃)におけるスフィンゴ糖脂質の意義を出芽酵母と動物細胞で明らかにすることにある。 1年目は、出芽酵母を用いて、(1) 弱低温環境下におけるスフィンゴ糖脂質合成の変化、(2) スフィンゴ糖脂質合成酵素におけるアスパラギン結合型糖鎖の意義、(3) スフィンゴ糖脂質合成不全株における低温センサータンパク質Wsc1の発現変動と多量体解析、(4)弱低温環境下での増殖に必須な機能未知タンパク質群の機能解析とスフィンゴ糖脂質代謝との関連性解析を実施した。また 、動物細胞を用いてスフィンゴ糖脂質合成酵素の欠損株の作成とその脂質解析を実施した。 その主な成果として、(1) 弱低温環境下でスフィンゴ糖脂質、特にMIPC合成の低下が認められたこと、(2) スフィンゴ糖脂質合成不全株において、低温センサータンパク質Wsc1の発現が低下していることを見出したこと、(3) スフィンゴ糖脂質合成酵素のN結合型糖鎖が酵素の基質特異性に関与していることが明らかになったこと、(4) 弱低温増殖に必須な機能未知タンパク質Mtc6の膜トポロジーと機能ドメインを同定したことが挙げられる。(3)に関してはその成果が論文に掲載され、(4)に関しては論文投稿に必要なデータがおおよそ揃ったところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スフィンゴ糖脂質合成酵素におけるアスパラギン結合型糖鎖に関する論文投稿後の追加実験と弱低温増殖に必須である機能未知タンパク質Mtc6の機能解析に関する論文投稿に必要なデータを取得するために多くの時間を使ったため、計画していた膜動態の解析や動物細胞を使った増殖試験などを実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で明らかになった実験事実を踏まえて、以下の(1)~(4)を中心に検討を進める。 (1) 弱低温増殖に必須な機能未知タンパク質Mtc6の機能解析の論文を完成させて投稿する。また、Mtc6とスフィンゴ糖脂質代謝との関連性も詳細に調べていく。(2) 弱低温環境下におけるスフィンゴ糖脂質合成の変動の原因を明らかにするために、スフィンゴ糖脂質合成酵素のタンパク質発現レベル及び遺伝子発現レベルでの変動を解析する。また、スフィンゴ糖脂質であるMIPCの合成に関わる制御サブユニットCsg2の弱低温環境下における機能解析も合わせて進める。(3) スフィンゴ糖脂質合成不全株におけるセンサータンパク質Wsc1の発現低下がタンパク質の安定性と関連するかについて解析する。また、スフィンゴ糖脂質合成不全株において、Wsc1はある特定の界面活性剤で可溶化されにくい状況にある。このことは野生株とスフィンゴ糖脂質合成不全株でWsc1の周りの膜環境状況が異なる可能性が考えられる。このことを明らかにするためにWsc1の膜動態解析を実施する。(4) 動物細胞のスフィンゴ糖脂質合成酵素変異細胞株の弱低温増殖を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染状況と大学業務の関係上、2022年度は学会に参加できなかったため、その旅費分が使用できなかった。それに加え、予定よりも物品費が抑えられたため、繰越し金が発生した。これに関しては2023年度の学会参加費と物品費で使用する予定である。
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