研究課題/領域番号 |
22K05575
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小野 明美 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 特任助教 (90732826)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / DNA脱メチル化酵素 / 胚乳発生 / トランスポゾン |
研究実績の概要 |
DNAメチル化やヒストン修飾などに代表されるエピジェネティックなゲノムの制御機構は、生命現象を多面的に支える。穀物の胚乳も、多様なエピジェネティック制御によってその発生や機能が担保される。本研究課題は、『イネに存在する複数のDNA脱メチル化酵素のそれぞれの特性が、イネ胚乳におけるエピジェネティック制御の多様な作用の一端を担う』という仮説のもと、個々のDNA脱メチル化酵素の基質の選択性や分子パーツを比較し掘り下げることで、多様なエピジェネティック制御を可能にする分子機構を理解していくことを目指している。具体的には3つのアプローチを計画し実施している。①DNA脱メチル化酵素の機能の相補性を精査する:DNA脱メチル化酵素それぞれの変異体の固有の表現型・基質選択性を他のDNA脱メチル化酵素がどこまで相補できるのか?②基質選択性の根拠となる分子機構にアプローチする:それぞれのDNA脱メチル化酵素と相互作用する因子は何か?③酵素特異的な選択を受けることが示唆される基質領域について解像度を上げて解析する:高度反復配列に酵素特異的なDNAメチル化を検出できるか? 令和4年度は、①について、表現型の顕著なOsROS1aの変異体を背景に、他のDNA脱メチル化酵素での相補を確認するための植物体を、交配により作出した。まず表現型に着目した遺伝学的な解析を行った。②それぞれのDNA脱メチル化酵素にtagを付加した構造の遺伝子を導入したイネを作成し、植物体で目的のタンパクが発現していることを確認した。付加したtagを利用した免疫沈降によりDNA脱メチル化酵素と相互作用する因子を探索するための各種条件検討を、これらの植物体を用いて行った。③基質領域の精査にむけて、DNAメチル化検出の解像度を上げるための試みの1つとして、Enzymatic Methyl-seqを行い、その汎用性と解像度について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つのアプローチを軸に計画を遂行しており、それぞれについて、これまでのところ計画の変更の必要性は生じていない。 ①「DNA脱メチル化酵素の相補性の精査」については、表現型の相補を遺伝学的に評価できる材料を作出することができた。これにより、遺伝学的な解析を掘り下げていくこと、更には、ゲノムワイドなDNAメチル化の分布レベルでの相補について解析していくための準備が可能となった。②「DNA脱メチル化酵素と相互作用する因子の探索」については、免疫沈降(IP)のためのtagを付加した目的タンパクが植物体での発現できていることを確認することができた。③「基質領域のDNAメチル化解析における解像度の向上」については、従来法に加えて新しい解析法との比較、検証により、解析の解像度を上げるための改善が進みつつある。 それぞれ、次のステップへと移行できる状況であり、引き続き、各場面で必要に応じた対応を加えながら展開していく。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ大きな計画変更の必要性は生じていないので、令和5年度は、当初の予定通り3つのアプローチ計画に沿って進めていく。 ①「DNA脱メチル化酵素の相補性の精査」については、表現型の相補性の解析を更に掘り下げていく。これに加えて新たに、ゲノムワイドなDNAメチル化の分布レベルでの相補性の比較解析を実施していく。②「DNA脱メチル化酵素と相互作用する因子の探索」については、免疫沈降(IP)解析に付随する、一連の生化学実験過程の最適条件を決定する。その後、スケールアップ等、次の段階へと順次進めていく。③「基質領域のDNAメチル化解析における解像度の向上に向けて」は、これまでに作出してきた植物材料と利用可能なDNAメチル化検出方法を組み合わせて利用しながら、より解像度・精度の高い方法論の探索を試みる。加えて、他のエピジェネティックマークや転写量などとの関連についても比較解析していくための情報・環境を整え、それぞれの相関についても考慮しながら精査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会・ミーティング等の、開催の延期あるいはオンライン開催の継続となったことが、大きな理由の1つであると考えている。生じた次年度使用額は、現在展開中あるいは今後展開予定の生化学的解析や次世代シーケンサー解析、およびそれに付随した周辺試薬、備品等に使用していく計画である。また、令和5年度より、国内外の学会でのオンサイト開催が本格的に再開される見通しであるので、これまで制限されてきた学会等への積極的な参加による情報の発信・収集の機会に活用していく計画である。
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