研究実績の概要 |
重イオンビームはDNA二本鎖切断に伴う欠失変異を誘発する、効率的な物理的変異原として広く利用されている。効率的な変異誘発を実現するためには、ゲノムあたりに可能な限り多くの変異を誘発すること、すなわち変異率を最大化するための条件設定が重要である。しかし、従来から用いられてきたアルビノ出現率などを指標とした方法は、多大な時間と労力を要することが課題となっている。 本研究では、超並列シーケンサーのリード配列から変異型アリルを直接検出し、ゲノム全体の変異数を予測することで最適照射条件を決定する、新しい方法論を確立することを目的とした。本年度は、来年度以降に行う計画であったDNA変異数を高精度に予測するアルゴリズムを開発に必要な、植物サンプル(集団)の育成と配列データの取得を進めた。 具体的には、植物のモデルとしてミヤコグサを選択し、乾燥種子と吸水種子に、ネオンイオン(LET: 60 keV/μm)または炭素イオン(22.5, 60 keV/μm)を異なる線量を照射した。これらを個体別に育成することで、各条件について15系統以上の独立の系統を構築した。M2世代の種子をセルトレイに播種し、各系統ごとに10個体のM2植物を混合したプールを作成し、DNA抽出を完了した。また、微生物のモデルとして、酵母に炭素・アルゴン・鉄イオンを照射後にプレート上に形成されたコロニーを収集して保存した。これらの一部を個別に培養してゲノムDNAを抽出し、全ゲノムシーケンシングを行った。今年度は28の条件で照射した計480系統について、約100倍ゲノム相当の配列データを取得し、参照ゲノム配列へのマッピングと変異解析を完了した。
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