研究課題/領域番号 |
22K05584
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
堀江 智明 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (90591181)
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研究分担者 |
石川 亮 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (70467687)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 耐塩性 / イネ / Cl蓄積 / Na蓄積 |
研究実績の概要 |
今年度は、耐塩性イネ在来種ノナボクラと感受性の栽培種コシヒカリの交雑系統(染色体断片置換系統群:CSSLs)を利用して、塩ストレス下における、毒性イオンNa+とCl-の地上部・地下部の蓄積様式を調査した。第5葉が完全展開した時点で、25 mM NaClの塩ストレス処理を開始し、計9日間段階的に濃度を上げて最終的に75 mMまで処理した。各試料から陰イオンクロマトグラフィー用の測定試料を準備しCl-の蓄積量を定量し、かつ同試料から陽イオン解析のためのICP試料も調整することで、同じ試料中のNa+含量も定量解析した。 全44系統の測定試料のイオン分析を完了させた。両分析で得られた数値を、各試料の湿重量で標準化し比較した。その結果、Cl-の蓄積に関しては、SL504系統のみ、ノナボクラと同様に、塩ストレス下の根に有意にCl-を高蓄積させていることが判明した。興味深いことに、SL504系統は、土耕栽培による生殖成長期のイネに長期塩ストレスを処理すると、コシヒカリよりも耐塩性が強い傾向を示した。この系統に関しては、直ちに共同研究者との協力により、反復親であるコシヒカリとの戻し交雑後代集団の作製に着手した。今秋には、BC1F2後代系統の種子が採取できる見通しである。また、この傾向とは逆に、コシヒカリよりも更に低い根のCl-蓄積を示す系統も存在することを見出した。一方で、Na+に関する分析から、SL502およびSL503系統が、根のノナボクラと類似したNa+の高蓄積を示す特性があることが判明した。今後、これら系統の解析も、より詳細に進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cl蓄積様式が、耐塩性イネに類似したCSSL系統を陰イオン分析により絞り込むという第一の目標を達成し、コシヒカリとの戻し交雑系統もこの秋にはBC1F2の種子が採取できる予定であるから。また、Na蓄積に関与する染色体領域や生殖成長期での土耕栽培での塩感受性なども、今夏予定通り、進められる見込みであるため。
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今後の研究の推進方策 |
Cl蓄積を主に支配する遺伝子座の解析に関しては、今年度の秋に採取されるSL504系統のBC1F2種子を利用して、根のCl蓄積の形質と連鎖するマーカーの設定を試みる。その際、より効率的にかつ多量のBC1F2系統の分析を実現するために、より幼植物段階で表現型の調査ができる系の構築を目指す。首尾よくClの表現型と連鎖する領域がおよそ絞れたら、それらの個体から自殖によりBC1F3の種子を採取する。また、SL504の連鎖解析を進める中で、過去複数年築き上げてきたタスマニア大学との共同研究の幅を広げて、MIFE法という独特な非侵襲的電気生理解析技術を適用させることで、より迅速にCl-に関する表現型の評価を実施することが可能か検証するプロセスの導入も試みたい。 一方、今年度の解析で絞り込んだSL502, 503, 504系統、およびいくつかのCl, Na低蓄積系統(Na)を利用して、より詳しい表現型解析を実施する。水耕栽培を用いた栄養成長期のイネ系統の評価、および土耕栽培による生殖成長期のイネ系統の評価を合わせて実施していく(含塩ストレス下の収量調査)。これらの解析で、SL504以外にもコシヒカリとの戻し交雑後代を作製する興味深い系統を絞り込む。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた、プロジェクトに関連する若干の物品購入(消耗品)が遅れてしまったため。今年開始早々、それらは発注予定であり、直ちに消化される見通しである。
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