研究課題/領域番号 |
22K05585
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西田 英隆 岡山大学, 環境生命科学学域, 准教授 (30379820)
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研究分担者 |
加藤 鎌司 岡山大学, 環境生命科学学域, 教授 (40161096)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オオムギ / 環境応答 / 匍匐性 / 開張性 / QTL解析 / 茎葉空間配置 |
研究実績の概要 |
ムギ類は一般に冬季に横方向に生長する匍匐性を示し,本特性が凍霜害回避に貢献していると考えられている.そこで,オオムギを研究材料として,匍匐性の遺伝機構を解明するために本研究を実施している. 先行研究において,オオムギ品種「イシュクシラズ」と「カシマムギ」を交配して育成した分離集団(RILs)で匍匐性と直立性が分離することを見出した.DArTseq解析により取得した5817個のゲノムワイドSNPを用いたQTL解析により,匍匐性QTLが3Hおよび4H染色体にそれぞれ2個,1個座乗することが明らかになった.加えて,匍匐性という性質が,葉鞘が低温に反応して地際部で水平方向に湾曲する低温湾曲性と,温度に依存することなく茎や葉鞘が基部から鉛直方向ではなく斜めから水平方向に生長する開張性,という2種類の特性からなる複合的な特性であることが示唆された. 研究初年度の結果の概要は下記の通りである.1)匍匐性の表現型解析と現象理解;199系統のRILsを供試して,冬季の圃場において葉鞘基部の湾曲性を,また無加温のハウスで開張性を調査した.QTL解析の結果,湾曲性,開張性ともに匍匐性と同じ染色体領域にQTLが検出されたが,湾曲性には3HSのQTLが,そして開張性には4HLのQTL効果が大きいことが示され,3つのQTLが異なる特性に作用することが示唆された.また,葉鞘基部の内生植物ホルモンを定量した結果,オーキシン,ジベレリン,サイトカイニン,ジャスモン酸の濃度がいずれも匍匐型で低いことが明らかになった. 2)匍匐性QTL候補遺伝子の絞り込み;イネの匍匐性に関わるPROG1のオーソログが4HLのQTL領域に2コピーあることを見出した.両コピーとも「イシュクシラズ」と「カシマムギ」で配列変異が認められたことから,匍匐性(開張性)QTLの有力候補と考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HvPROG1が匍匐性(開張性)QTLの有力候補であることを突き止め,加えて,葉鞘基部の植物ホルモン量が匍匐型と直立型で異なることを明らかにしていることから,順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は下記の通りである. 1)匍匐性の表現型解析と現象理解;葉鞘基部の内生植物ホルモン量が匍匐型と直立型で異なること,向軸側と背軸側で異ならないことが明らかになった.本年度は,両親系統とRILs(匍匐型と直立型各数系統)について,葉鞘基部の内生植物ホルモン量の経時的変化を解析する.この結果により,植物ホルモン量が匍匐型と直立型で異なるのは冬季限定であること,即ち冬季の環境に対する応答現象であることを明らかにする. 2)匍匐性の環境応答解析;両親系統とRILs(匍匐型と直立型各数系統)を用いて,低温湾曲性を再現できる人工環境条件を明らかにする.昨年度,2種類の人工気象器を用いて最低気温0℃,もしくは6℃で匍匐性発現の有無を検討した結果,両条件とも匍匐性の発現には至らず,しかも6℃の方が開張程度が大きいという予想外の結果となった.この原因として,照明の違い(0℃はLED,6℃は蛍光灯)が考えられたので,本年度は光の波長の効果について検討する. 3)匍匐性QTLの解析;申請者らが先行研究により明らかにした3つのQTL領域をさらに絞り込み原因遺伝子の特定を目指す.このために①分離集団の親である「イシュクシラズ」と「カシマムギ」のゲノムリシーケンスを行う.両親間で配列が異なる遺伝子をQTL領域において特定し,候補遺伝子の絞り込みを進める.②先行研究では199系統のRILsのうち30系統を用いてバルク分離分析し,QTL領域を特定した.そこで,QTL領域をさらに絞り込むために,199系統すべてを供試してMIG-seq解析を行い,得られたゲノムワイドなSNPデータを用いてQTL解析を行う.候補領域が狭まるので,①の解析も効率よく進めることが可能になり,原因遺伝子の特定を加速できる.③オオムギ品種100系統を供試して配列変異と匍匐性との対応を確認する.
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