研究課題/領域番号 |
22K05591
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
濱田 茂樹 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (90418608)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 米 / 澱粉 / アミロース / スプライシング / 突然変異 |
研究実績の概要 |
近年の輸入穀物の価格高騰や供給不安を背景に、食料自給率向上が今後さらに強く求められる。それには、自給可能な米の新規用途や高付加価値米の品種開発が必須である。冷めても硬くなりにくい特徴を有する低アミロース米は、おにぎりのような中食や業務用米で利用が拡大しており、食料自給率向上の鍵となる重要な品種である。既に低アミロース形質を制御する複数の遺伝子が同定されてきたが、他にも多くの未同定の新規制御遺伝子の存在が考えられている。本研究では、新たに見出した低アミロース性突然変異体を用いて、遺伝資源としての有用性およびデンプン生合成のメカニズム解明を目的とした。つがるロマンを原品種とする突然変異集団から、外観およびヨウ素染色法を用いて低アミロース系統を選抜した結果、白濁した外観を示す2種の低アミロース性突然変異系統を見出した。令和4年度はそのうちの1系統 Amy41 の原因遺伝子を同定した。令和5年度の本課題では、Amy41変異体の作用機序解明を進めるとともに、新たに見かけのアミロース含量がほぼ0%(もち性)を示す突然変異系統 Amy28について、原因遺伝子の同定をおこなった。次世代シークエンス解析および SNaPshot 法によるフラグメント解析から、Amy28 の原因遺伝子が Protein kinase pre-mRNA processing factor 4B 遺伝子 (Osprpf4B) であると同定した。Amy28登熟種子中のアミロース合成酵素 GBSSI のタンパク質レベルの発現は原品種より大幅に減少していることが明らかとなった。また、Osprpf4Bの一塩基多型により GBSSⅠ遺伝子 (Wxb) のミススプライシングが原因で GBSSⅠタンパク質の発現が減少していた。以上の結果から本研究では、GBSSIの発現およびアミロース合成に関与する新規制御因子の同定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度に同定した Amy41 の原因遺伝子 OsSerrate が、ジャポニカタイプの Wxb のみならず、インディカタイプのWxa にもスプライシング抑制を示すのか解析した。Wxa 品種との交配後代についてアミロース含量と遺伝子型の相関を確認した結果、Wxb にはスプライシング抑制を示したが、Wxa には影響を及ぼさなかった。一方で、Wxa であっても Amy41 変異の有無により見かけのアミロース含量には有意な減少が見られた。このことは、OsSerrate のアミロペクチン長鎖合成に関わる遺伝子発現制御への影響を示唆している。さらに、本研究ではもう1種の低アミロース性変異系統 Amy28 について原因遺伝子の同定を行なった。戻し交配後代の分離集団を用い、次世代シークエンス解析および SNaPshot 法によるフラグメント解析を行なった結果、Amy28 の原因遺伝子は、Protein kinase pre-mRNA Processing factor 4B 遺伝子 (Osprpf4B) であると同定した。Osprpf4B の第1エキソン上に SNP が存在し、1アミノ酸置換が生じていることが明らかとなった。Amy28 登熟種子中におけるアミロース合成酵素 GBSSI のタンパク質発現レベルは、原品種と比較し大幅に減少していた。また、Wxb の第 1 イントロンが正常にスプライシングされた転写産物が減少していることも明らかとなった。一方で、Wxb mRNA 全体の発現量には変化がなかったことから、prpf4B の機能欠失が Wxb のスプライシングに影響することで、アミロース量を低下させていることが分かった。以上のように、当初の計画に従い実験が行われ、予定通りの結果が出ていることから、順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4-5年度実施した研究によって2種の低アミロース性に関わる新規制御遺伝子 OsSerrate および Osprpf4B が同定されたが、どのようなメカニズムで GBSSI 遺伝子のスプライシング制御を行っているのか未だ不明である。OsSerrate については C 末領域の欠失がタンパク質機能にどのような影響を与えているのか、既知の低アミロース性原因遺伝子がコードするタンパク質との相互作用に着目して解析を進めていく予定である。また、OsSerrate がアミペクチン長鎖合成にも影響を与えることが示唆されたことから、他のアミロペクチン生合成遺伝子のスプライシングへの影響も検討する。Osprpf4Bについても同様に、Wxa のスプライシング制御に対する影響を検討する。そのための Wxa 品種との交配は既に行い、F2分離集団は準備している。これらの後代についてアミロース含量と遺伝子型の相関を確認するとともに、Wxa 遺伝子の発現解析を行う。これまで明らかにされてきた低アミロース性変異体はいずれもGBSSI 遺伝子の第一イントロンの選択的スプライシングという共通の転写後制御で行われていることから、これらタンパク質の相互作用が予想される。そこで上述したように、酵母 Two hybrid システムを用いて、既知のタンパク質同士の相互作用を検討する。これらの成果は、これまで未解明であったアミロース合成酵素の選択的スプライシング作用機序の理解をより深めるものである。
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