研究課題
パインアップル品種のゴールドバレルは,糖度16.5度,酸度0.53%と従来品種に比べ高品質で,市場では高価格で取引され,沖縄のパイン生産農家から救世主の到来と期待されている.しかし,開花後,果実の肥大速度に果柄部の成長が追いつかずに果実が折曲・倒伏して日焼けし,その結果,腐敗が生じ果実品質は著しく低下し,商品化率は低下する状況にある.本研究では,その改善策として果柄部の耐倒伏性向上を目指し,イネなどで実用化されているケイ酸(Si)肥料施肥による耐倒伏性向上を試みた.昨年度は,ハウス内にてゴールドバレルを水耕栽培し,ケイ酸肥料と窒素肥料を組み合わせた4処理区を設定して栽培し,葉のガス交換速度(光合成速度),葉のケイ酸含量,窒素含量を調査した.その結果,Siの効果が期待されたので,本年度は,倒伏防止資材として市販されているケイ酸加里肥料(プレミア34)を圃場にて株基部に施用し,ケイ酸の効果を調査した.本年度は,実際の栽培圃場に於いて,通常のパインアップル肥料を施用した場合,どの程度の割合で倒伏果実が生じるかを調査した.その結果,509個体(株)を調査したところ,3.5%の割合で倒伏果実が発生し,また,多冠芽率は11.8%で2冠芽は6.3%であった.この多冠芽率と倒伏との関係は見いだせなかった.昨年9月に植え付けたゴールドバレルの株に,2024年3月にケイ酸加里肥料を処理し,その効果は夏期果実の収穫が終了する6~7月頃に判明するが,収穫後サンプリングを行い,Siの効果を検証する予定である.また,ゴールドバレルのバイオマス生産(CAM型CO2収支量)の向上を目指し,明期の日長を12時間と14時間の2段階設定して比較したところ,光強度に関係なく明期は短い方がCO2収支量は高かった.これは,一般的に言われるCAM型光合成植物の特徴でもある.
2: おおむね順調に進展している
本申請研究では,パインアップル品種のゴールドバレルの弱点である耐倒伏性を向上させ,商品化率を高めることを目標に研究を進めている.昨年度は,養分吸収が明確に比較できる水耕栽培に着目して,ハウス内で実施した.本年度は,実際の圃場で数品種を同時に栽培し,ケイ酸加里肥料を処理し,ケイ酸の効果を栽培期間を通じて確認している.処理区は,ケイ酸加里の施用区と無施用区の2区を設定し,比較検討中である.2023年9月に植え付けた個体に対しケイ酸加里肥料を2024年3月に施肥し,Siの効果を調査中である.植え付けた株の中には果実が出蕾した植物体もあり,通常より早いペースで成長しているため,栄養成長期の植物体と果実個体との比較も可能である.また,CAM型光合成の測定は,光合成測定室に搬入し順化させ,その後24時間態勢で3日間連続測定し,最後の日変化の安定性を確認し,次のステップに移行する.この3日間の連続測定結果が再現性あるのかを検証するため,2個体を2回に分けて測定し,合計4株で比較した結果,個体間差異は無いことが判明し,1回の3日間連続測定の結果でその品種のCAM型光合成の特徴を代表できる,と証明できた.
パインアップルは通常の路地栽培の場合,植え付けから収穫まで2年の期間を要する.その間,降雨による過湿状態が根系の病原菌の伝搬を促進し,幼苗期に腐敗するなどの被害が多発している.そこで本年度は,栽培前にうね立てを行い,同時にマルチを張り,土壌の過湿状態を防ぎ萎縮病被害を最小限に抑える栽培方法の確立を予定している.マルチの効果としては,他に雑草防除,作業車の安全走行も可能で,一部農家では実用化している.昨年9月に植え付け,今年3月にケイ酸カリ肥料を施肥した区の植物体と,無処理区の植物体の葉のSi含量を調べ,また,果実の倒伏状態も調べ,倒伏果実の果柄部と葉のSi含量を比較する.また,栽培土壌のSi含量やpHを詳細に調べ,土壌の違いが植物体のSi含量に影響を与えるかも検証したい.また,萎縮病が蔓延する土壌にも何らかの特徴が予想されるため,物理性,化学性を調査し,比較検討する.
物品費を最終年度に使用することとした.その理由として,実験圃場が離島にあり,開花時期や施肥効果の調査を頻繁に行う必要があるため.
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Journal of Experimental Botany
巻: - ページ: -
10.1093/jxb/erae081
Journal of Near-Infrared Spectrometer
巻: 31 ページ: 14-23
10.1177/09670335221136545