研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,カンキツ果実におけるアントシアニン蓄積メカニズムを明らかにすることにより,ブラッドオレンジ果実の成熟過程における着色機構の全容を解明し,効果的な収穫前・収穫後の着色促進技術を開発することである。 令和4年度は,ブラッドオレンジにおけるアントシアニン蓄積の分子機構を解明するため,アントシアニン含量の異なる品種であるウンシュウミカンの‘宮川早生’,‘太田ポンカン’およびブラッドオレンジを用いて,果実のフラボノイドとアントシアニン含量の季節変動および生合成遺伝子CitF3Hの発現変動を調査した。また,in vitroとin vivoの方法を用いて,CitF3Hの機能を解明した。その結果,CitF3Hはナリンゲニン3位の水酸化を触媒する酵素であり,ブラッドオレンジのアントシアニン生合成に関与する重要な酵素であることが示唆された。 また,ブラッドオレンジ果実におけるアントシアニン蓄積に及ぼす温度の影響を調査するため,ブラッドオレンジの培養砂じょうに5℃,10℃,15℃および20℃の温度処理を行った。その結果,培養4週でアントシアニン含量は,‘モロ’において20℃の対照区と比較して10℃および15℃で含量の増大がみられ,‘タロッコ’において5℃,10℃および20℃で含量の増大が認められた。両品種いずれも10℃で大きく影響がみられ,外観からも濃いアントシアニンの蓄積が認められた。‘モロ’および‘タロッコ’いずれの品種においても10℃処理でアントシアニン生合成関連遺伝子(CitCHS1,CitCHS2,CitCHI,CitF3H,CitF3’H, CitF3’5’H, CitDFR, CitANSおよびCitUFGT)の発現レベルが増大し,アントシアニン含量の増大が認められた。以上の結果より,ブラッドオレンジ果実のアントシアニン代謝には10℃の低温が最も大きな影響を及ぼすことが明らかになった。
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