本研究では、低シュウ酸形質を示すホウレンソウ系統を用い、野生型と低シュウ酸株を比較することにより、低シュウ酸性をもたらす機構と、ホウレンソウにおけるシュウ酸蓄積の生理学的意義の解明を目指す。 低シュウ酸系統におけるシュウ酸生成抑制機構の解明 植物のシュウ酸生合成に関わる酵素として、グリオキシル酸酸化酵素、オキサロ酢酸加水分解酵素、リンゴ酸合成酵素関連遺伝子が知られている。低シュウ酸系統におけるそれらの遺伝子発現を野生型と比較した結果、これらの経路において遺伝子発現が低シュウ酸個体において抑制されている可能性が示唆された。この点については、今後、発現が抑制されている遺伝子に関わる酵素の活性測定を行い検証する必要がある。 ホウレンソウにおけるシュウ酸生成・蓄積の生理学的意義 ホウレンソウの植物体への多量のシュウ酸蓄積の生理学的意義として、根から水素イオンを放出しリン酸や鉄の吸収を促進させることが考えられている。砂を基本培地とした栽培で、難水溶性(根から分泌される酸により溶ける)のリン酸三カルシウムを少量混和し、リン酸を含まない培養液を与えて栽培して野生型と低シュウ酸系統での生育比較を行った結果、低シュウ酸系統では難水溶性のリン酸の吸収能力が劣ることが示唆された。鉄欠乏に対しては、逆に低シュウ酸系統の方がクロロシスの生じにくい耐性を示した。このことについて今後の検討が必要である。また、リン酸や鉄の欠乏下では、低シュウ酸系統でもある程度シュウ酸蓄積量が増加する傾向がみられ、植物体の根と地上部との間で有機酸含量に相関があると仮定すると、リン欠乏条件では低シュウ酸型においてクエン酸を根から放出させて難溶性のリン酸を可溶化させるために、クエン酸を植物体に多く蓄積させている可能性が考えられた。このことについても今後の検討が必要である。
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