研究課題
植物病原菌類は宿主植物において菌糸を枝分かれさせながら増殖するが、枝分かれした菌糸同士が融合 (自己菌糸融合)して菌糸がネットワーク化していると考えられている。本研究はムギに病害とカビ毒汚染を与えている赤かび病菌について、感染成立における菌糸ネットワーク形成の重要性を明らかにすることを目的としている。この研究は大きく、病原性喪失株における自己菌糸融合能の調査と自己菌糸融合に伴う遺伝子発現の変化の解析から成っており、本年度については当初の計画に沿って病原性喪失株における自己菌糸融合能の調査を実施した。遺伝子組換えを利用して、野生株と病原性喪失株それぞれについて、緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP) /ジェネティシン耐性遺伝子(GenR)と赤色蛍光タンパク質遺伝子(RFP) /ハイグロマイシン耐性遺伝子(HygR)を導入したものを用意して培地上での自己菌糸融合を調べた。同一株に由来するGFP/GenR 導入株とRFP/HygR導入株を対峙培養し、コロニーが重なり合った部分の菌糸の蛍光を観察したところ、野生株では緑色と赤色が混合した菌糸が認められた。また、同部位の菌糸をハイグロマイシンとジェネティシンの両方を含む培地に移植したところ、菌が増殖することを確認できた。一方、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質遺伝子の異常で病原性を喪失している株及び、NADPHオキシダーゼ遺伝子の異常で病原性を喪失している株については、緑色と赤色が混合した菌糸は認められず、ハイグロマイシンとジェネティシンを含む培地で菌が増殖することもなかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ムギ類赤かび病菌の宿主植物への感染成立における菌糸ネットワーク形成の重要性を明らかにすることである。研究計画上、1年目となっている令和4年度には、蛍光タンパク質遺伝子導入株の作成して培地上で自己菌糸融合を調べることであり、計画通り終了した。
研究計画上、2年目となっている令和5年度には前年度作成した蛍光タンパク質遺伝子導入株を宿主植であるムギ穂に接種して、自己菌糸融合を調べることになっている。また、蛍光タンパク質遺伝子導入株を利用した新規タイプの農薬開発として、自己菌糸融合を阻害する化合物の探索することになっている。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Fungi
巻: 8 ページ: 1048
10.3390/jof8101048