研究課題/領域番号 |
22K05652
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大崎 久美子 鳥取大学, 農学部, 准教授 (20432601)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 揮発性抗菌物質 / きのこ / Alternaria brassicicola |
研究実績の概要 |
植物病原菌に対する抗菌活性を示す,きのこ由来揮発性物質(VA: volatile antibiotics)の抗菌性メカニズムを明らかにするため,各種きのこ由来VAの植物病原菌に対する抗菌スペクトルおよびアブラナ科植物黒すす病菌(Alternaria brassicicola)の感染過程に及ぼす影響を調べた. オリーブウロコタケから単離された3,5-ジクロロ-4-メトキシベンズアルデヒド(DCMB)およびシイタケ廃菌床から放出される3-オクタノンの各種病原菌に対する抗菌活性を評価した.その結果,両VA揮発処理により数種の病原菌の胞子発芽と病原細菌のコロニー形成を抑制することを明らかにした.さらに両VAともにキャベツ黒すす病またはトマト灰色かび病に対して発病抑制効果が認められた.きのこ由来VAの特徴として,広範な病原菌に対して抗菌活性を有することが示唆された. 次にDCMBまたは3-オクタノン揮発処理によるA. brassicicolaの感染過程に対する影響を調べた結果,両VA処理ともにA. brassicicolaの胞子発芽および発芽管伸長に対する抗菌活性が認められた.これらVAのA. brassicicolaに対する抗菌活性は静菌的であると考えられた.また,DCMB揮発処理により培地上におけるA. brassicicolaの菌糸伸長にほとんど影響がなかったが,胞子形成を抑制した.さらにDCMB揮発処理した培地から得た胞子の発芽管伸長は顕著に抑制された.このことより, DCMBはA. brassicicolaの胞子形成および発芽に対して阻害作用を示すことが明らかとなった.なお,A. brassicicolaはアブラナ科植物に感染するために宿主特異的AB毒素の生産が必須であるが,DCMBまたは3-オクタノン揮発処理によるAB毒素生成に対する影響はないことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. brassicicolaを対象病原菌類として,きのこ由来VAの抗菌性メカニズムを解明するために,計画通り,おおむね順調に研究を推進している. きのこ由来VAであるDCMBまたは3-オクタノンの揮発処理による10種以上の植物病原菌に対する抗菌活性を調べ,幅広い抗菌スペクトルを有していることを明らかにできた.これらVAは胞子発芽を強く阻害することが示され,各種病害の発病を抑制した.さらに,DCMB揮発処理ではA. brassicicolaの胞子形成に対して阻害作用を示すことが明らかとなった.引き続き,胞子の発芽以降の付着器形成などの感染過程に対する影響についても調査する必要がある.また,他のAlternaria属病原菌の感染における影響についても検討を進めている. 今回の研究成果より,きのこ由来VAが広範な病原菌類の胞子発芽を阻害する抗菌性であることが推測されたため,胞子発芽に関与する各種遺伝子の発現解析を準備している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って,今後の研究を推進する. 特に,きのこ由来VA処理によるA. brassicicola胞子発芽阻害メカニズムを解析するため,胞子発芽に関与するMAPキナーゼ経路関連遺伝子の影響をqRT-PCRで解析し,VAの作用部位を特定することを目指す.また,VA処理によるA. brassicicolaの病原性に対する影響は,AB毒素活性のみを調査するのではなく,VA処理したA. brassicicolaにより生産されたAB毒素の性状についても詳細に解析する予定である.
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