研究課題
動物や植物等の多くの真核生物は有性生殖により生命の連続性を維持すると共に多様性を生み出している。一方,動植物と同じ真核生物である植物病原糸状菌や麹菌などの有用物質生産菌では、不稔化して有性生殖がみられない種が多数存在し、かつては完全世代を示さないことから不完全菌類と呼ばれていた。本研究では菌株によって稔性・不稔性の両形質が確認されているイネいもち病菌をモデルとして,不稔化因子を探索・同定することで不稔化の分子制御メカニズムの解明を試みる。また感染過程を含む無性生活環における不稔化の影響を明らかにすることで「なぜ不稔化したのか」という生物学的意義の一端を明らかにすることを目的としている。2022年度において転写因子Pro1の機能欠損が自然界で生じたイネいもち病菌の不稔化の一因であることを突き止め,不稔化によって分生子離脱率が上昇するといった生存に有利な形質変化が生じる可能性を示した。2023年度は不稔化機構についてより詳細な分子制御機構の解析を実施し,Pro1制御下にある複数遺伝子の機能欠損においても同様に不稔化が生じることを示した。またマイコウイルス感染が認められるイネいもち病菌フィールド分離株においては,Pro1機能が高度に保存されていることを見出し,Pro1の機能欠損により細胞内のマイコウイルスが速やかに離脱してく現象 (治癒現象) を捉えることができた。これは上述した分生子離脱率の上昇に加え,不稔化によりマイコウイルス感染の脅威から逃れられるといった新たな有用形質が付与されることを示唆している。さらに実験環境下で高頻度に生じる不稔化がベルベットファミリータンパク質の一つであるVeAへの機能変異によって引き起こされていることを明らかにし,イネいもち病菌の不稔化は環境条件によって様々な要因により引き起こされることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Pro1機能欠損による分生子離脱率の増加に加え,マイコウイルスの治癒現象についても不稔化による新たな形質変化として見出すことができた。また実験環境下での不稔化の要因についても明らかにできており,計画通りに進展している。
Pro1およびVeA機能欠損株におけるより詳細な表現型 (形質変化) 解析ならびに相互作用解析に加え,自然界で生じた上記以外の不稔化要因についての探索を行い,不稔化機構とその意義について多角的に追求していく。
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