研究課題/領域番号 |
22K05659
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
近藤 真千子 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 助教 (40645975)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物病原細菌 / エフェクター / イネ / 免疫 / 病徴 |
研究実績の概要 |
植物病原細菌Acidovorax avenaeのイネ非病原性N1141菌株のRHIFエフェクターはイネの免疫反応を誘導するが、イネ病原性K1菌株のRHIFはイネの病徴を引き起こす。また、K1菌株のAKSF1エフェクターは免疫抑制能と病徴発現能を合わせ持つ。本研究では、このようなエフェクターがどのようにイネの免疫反応を回避し病徴を発現するかについて分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行った。 これまでの研究から、イネの過敏感細胞死誘導がそれぞれの菌株のRHIFタンパク質の分泌の違いや酵素活性の違いによって左右されないことが明らかとなり、RHIF分子の違いによって左右される可能性が濃厚になった。2022年度の研究では、それぞれの菌株のRHIFの分子間で異なる13個のアミノ酸に着目した。これら13個のアミノ酸はRHIF分子のNTPaseドメインの前に5アミノ酸、後ろの2つの領域に4アミノ酸ずつ配置していた。そこで、これらのアミノ酸を含む領域をN末端付近、中央付近、C末端付近の3つの領域に分けた6種類の部位置換タンパク質(NNK、NKK、NKN、KKN、KNN、KNK)の発現ベクターを作成し、イネプロトプラストに導入し、細胞死を計測した。その結果、N1141菌株のRHIFと同等の細胞死を誘導したのはNNKとKNNであり、N1141菌株のRHIFの中央部分のみを置換したKNKでは細胞死誘導率がそれほど高くなかったことから、イネの過敏感細胞死誘導にはN1141菌株のRHIFの中央付近が必要であり、その活性にはN末端あるいはC末端が必要であることが示された。一方で、中央領域がK1菌株のRHIFとなっている部位置換タンパク質はいずれもイネの過敏感細胞死を誘導せず、KRHIFの中央領域が過敏感細胞死の回避に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究によって、N1141菌株によるイネの過敏感細胞死の誘導にはN1141菌株のRHIFの中央領域とN末端あるいはC末端が必要であることが示され、K1菌株のRHIFの中央領域は過敏感細胞死の誘導しないことが明らかとなった。このことは、K1菌株のRHIFの中央領域が過敏感細胞死を回避するのに必要である可能性を示す。以前の研究で、酵母Two-hybrid法によりK1菌株のRHIFはイネの過敏感細胞死誘導に関与するOsCPK8と相互作用することが明らかとなっていることから、K1菌株のRHIFがOsCPK8との相互作用によりイネの過敏感細胞死誘導を抑制しているのであれば、KRHIFの中央領域がOsCPK8との相互作用に必要であることが考えられる。また、今後の研究で使用する予定のRHIFのターゲットタンパク質の同定に必要なRHIF抗体を作成し、精製を行った。このように、イネの過敏感細胞死誘導の有無に関与するRHIFの領域が特定でき、ターゲットタンパク質の同定の準備も進んでいることから、研究は概ね計画通りに進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、N1141菌株のRHIFとK1菌株のRHIFの発現タンパク質を用いて、ターゲットとなるイネタンパク質について、免疫沈降や高分解能オービトラップ質量分析計を用いた同定を行う。また、K1菌株のRHIFに関してはOsCPK8との相互作用についても免疫沈降法によって確認する。 また、AKSF1エフェクターによるイネのPAMP誘導性免疫反応の抑制については、これまで調べた活性酸素やカロースの沈着以外のPAMP誘導性免疫に関与する現象について、MAPKのリン酸化などについても調べる。また、RHIF同様に、ターゲットとなるイネタンパク質の同定をRHIFと同様に行っていく。さらに、AKSF1とK1菌株のRHIFのダブル変異体を作成し、イネに接種することでイネの病徴が完全になくなるかどうかを確認する。 また、K-RHIFとAKSF1以外のエフェクターについて、K1菌株とN1141菌株のゲノム比較から菌株間での相同性が低く、in silico解析で分泌されることが予測されたタンパク質の遺伝子変異株をそれぞれ作成し、イネに接種することで、イネにおけるPAMP誘導性免疫反応抑制能や病徴発現能について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究で、K-RHIFとAKSF1のダブル変異株の作製やK1菌株とN1141菌株のゲノム比較から予測されたエフェクタータンパク質の遺伝子変異株の作製を行う予定であった。変異株作製用ベクターの作成は進んだが、菌体にベクターを形質転換後の選抜が難航し、ベクターの作製をやり直すこととなった。その結果、ベクターの作成やその変異株を用いたさまざまな解析が次年度以降になったことから、次年度使用額が生じることとなった。したがって、次年度使用額ではこれらの変異株作成と解析はもちろん、それぞれのエフェクターによる免疫反応誘導や病徴発現についての解析、ターゲットタンパク質の探索などに用いる予定である。もしターゲットタンパク質が早期に発見できれば、ターゲットタンパク質のCRISPR-Cas9変異体の作成やその解析にも使用する。また、学会発表や論文投稿費に支出する予定である。
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