研究課題/領域番号 |
22K05663
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
屋良 佳緒利 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 植物防疫研究部門, 上級研究員 (70354123)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クリタマバチ / チュウゴクオナガコバチ |
研究実績の概要 |
侵入害虫クリタマバチの導入寄生蜂チュウゴクオナガコバチが茨城県つくば市(現在)に放飼された1982年から40余年分の調査結果を整理、再解析した。これまでの知見は放飼後10年までで、その後30年の害虫、天敵の動態は明らかでなかった。解析の結果、防除成功と判断された放飼後10年以降に、一時的な害虫密度増加が3回認められたが、そのいずれもに連動した天敵密度増加が認められ、これにより害虫密度が速やかに低下しており、結果的に導入天敵が長期間にわたり害虫密度を抑えていることが明らかとなった。以上について論文公表した。 以上は自生のクリにおける調査結果であったため、栽培クリ園(現、茨城県かすみがうら市、1985年放飼)における36年分の調査結果を整理、解析した。自生グリの解析結果とは異なり、害虫密度低下以降に再増加は認められず、天敵もごく低密度で推移していた。栽培クリと自生クリとでの動態の違いに注目し、更に解析を進めている。 別の栽培クリ園(長野県小布施町、1992年放飼)についても10-15年分の調査結果を整理した。前述2つの調査地とは異なり、土着寄生蜂クリマモリオナガコバチ以外の土着寄生蜂の動態にも注目して解析を進めたところ、導入天敵放飼後に密度低下する土着寄生蜂(クリノタカラモンオナガコバチ)がいる一方、新たに発生が認められるようになった土着寄生蜂(クリタマオナガコバチ)もいることが明らかとなった。導入天敵放飼後に新たに発生、密度増加した土着寄生蜂についての報告はこれまでになく、このことについて論文投稿した。 北日本におけるチュウゴクオナガコバチ放飼後の害虫と天敵の動態の知見は、関東以西のそれと比較して極めて乏しい。そこで盛岡(岩手県)の天敵発生を調査した結果、2年1化と考えられる寄生蜂がごく少数だが得られた。前年までの調査で得られた試料と共にDNA解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クリタマバチの伝統的生物的防除について、関東での最初の本格的放飼地における害虫クリタマバチと天敵チュウゴクオナガコバチの長期動態について論文化、公表に至った。並行して栽培クリ園における害虫と天敵の動態調査のとりまとめ、解析、一部投稿、および北日本における導入、土着天敵の分布等の実態把握について調査、解析を進めており、本項目については、概ね予定通りのペースで研究調査が進んでいると言える。 もう1つのモデルケース、寄生蜂シルベストリコバチによる伝統的生物的防除については、寄主(ミカントゲコナジラミ、チャトゲコナジラミ)、寄生蜂の採集を複数回試みたが、シルベストリコバチは全く得られず、代わりに別の寄生蜂(Amitus hesperidum nr.)の発生が認められたため、その分布等の実態把握の調査を検討中で、飼育試験が行えるようにカンキツ(甘夏)とチャの実生を作成している。当初計画で想定された結果とは得られた内容は異なるが、進捗状況は概ね予定通りと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
クリタマバチの伝統的生物的防除については、栽培クリ園における害虫、天敵の長期動態解析を進める。また、北日本におけるクリタマバチ寄生蜂の実態把握のための調査、解析を進める。ともに論文化、投稿化を目指す。 寄生蜂シルベストリコバチによる伝統的生物的防除については、サンプルの採集と解析を進めるとともに、相互作用解明のために随時各種室内操作試験が行える環境を確立するためのシルベストリコバチ、Amitus hesperidum nr.の継代飼育を検討する。 いずれも寄生蜂間の相互作用の解明を目的として解析を進めているが、当初の予想とは異なる結果が得られている。今後は想定外の結果が出たところに注目して解析を進め、今どのようになっているか、その現状を可能な限り調査し、解析を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、シルベストリコバチの解析に使用する予定だったが、複数回採集活動したにも関わらず、全くシルベストリコバチが得られなかったため、解析費用が不要となり残額が生じた。次年度はシルベストリコバチに限定せず、寄主(ミカントゲコナジラミ、チャトゲコナジラミ等)とその寄生蜂(Amitus sp.等)の解析のために使用する。また想定外で得られた2年1化のクリタマバチの寄生蜂の諸解析にも使用する。
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