研究課題/領域番号 |
22K05676
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
早川 徹 岡山大学, ヘルスシステム統合科学学域, 助教 (30313555)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 殺虫トキシン / 蚊の防除 / Bacillus thuringiensis / Mpp46Ab / Cry4Aa / 電気生理学的解析 / アカイエカ幼虫 / 人工脂質平面膜 |
研究実績の概要 |
土壌細菌Bacillus thuringiensis由来の殺虫トキシンは小孔形成トキシンとして機能する。しかし「小孔形成」と「殺虫活性」の関連に不明な部分が多く、その解明が新規殺虫剤を開発する上での喫緊の課題となっている。課題解決のため、本研究では構造が異なる殺蚊トキシン(アエロリシン型のMpp46Abや3ドメイン型のCry4Aa)で小孔形成領域を標的とする変異導入解析を進めており、トキシン小孔のイオン透過性、特にカチオン選択性が殺虫活性と連動して変化することを観察している。特にMpp46Abの小孔形成βヘアピン構造(β8-β9)内に位置するK155残基はトキシン小孔のカチオン選択性、さらには殺虫活性を制御するためのホットスポットであることを示している。 本年度はMpp46AbのS153残基(K155近傍に位置する極性残基)を標的としたランダム変異体ライブラリを構築した。最終的に得られた11種の変異体についてアカイエカ幼虫を用いたバイオアッセイで解析した結果、殺虫活性が大幅に上昇した変異体(S153I)を見つかり、S153残基もK155残基と同様なホットスポットであることが考えられた。またMpp46Ab野生型は殺蚊Cry4Aaと協調して働き、殺虫活性が大幅に助長されることで知られるが、この効果が失われた変異体(S153FおよびS153L)も変異体ライブラリから見つけることができた。変異体トキシン小孔のイオン透過性を解析した結果、「殺虫活性」にはトキシン小孔の「シングルチャネルコンダクタンス」と「カチオン選択性」が、「Cry4Aaとの助長効果」にはトキシン小孔の「カチオン選好性」が連動して変化していた。殺虫トキシンの作用機構は小孔形成に基づくもので、トキシン小孔の性状によって様々な効果が発揮されていると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も昨年度に引き続き殺蚊Mpp46Abトキシンの小孔形成領域を標的としたランダム変異導入解析を行った。その結果、小孔形成β8領域に位置するS153残基を標的としたランダム変異体ライブラリからも「殺虫活性が大幅に上昇した変異体」を見つけることができた。変異体トキシン小孔の電気生理学的解析の結果から、殺虫活性がトキシン小孔のコンダクタンスやカチオン選択性(PK/PCl値)と連動することが判明した。この結果は以前作製したMpp46Ab変異体(K155EおよびK155I)での観察に類似しており、Mpp46Abの作用機構が主に浸透圧ショックであることを示唆していた。またトキシン小孔のイオン透過性が小孔形成領域の極性アミノ酸残基を置換することでコントロールできることを示唆していた。 一方、Mpp46Ab S153変異体をさらに詳しく解析した結果、本トキシンの特徴の一つである「殺蚊Cry4Aaとの助長効果」を喪失した変異体も発見することができた。本研究では「Cry4Aaとの助長効果」に連動する「トキシン小孔のイオン透過性」の変化も見つけており、「小孔形成」と「殺虫活性」の密接且つ複雑な関連性を明らかにしつつある。トキシン小孔の性状(イオン透過性)がトキシンの殺虫活性を反映する有効な指標になる可能性が強まっている。以上は本研究がおおむね順調に進展していると判断するに十分な成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの結果からBt菌に由来するトキシンの殺虫活性は「小孔形成」に依存することが示唆されている。これはトキシン小孔の性状を以って殺虫活性が評価できることを示唆しており、新規殺虫トキシンの開発を大幅に簡略化・加速化できる可能性を示している。一方、トキシン小孔の性状(主にイオン透過性)をコントロールするには小孔形成領域全体を網羅的にカバーする解析、特にトキシン小孔のイオン選択性に関与する機能構造の特定などが必要と考えている。殺蚊Mpp46Abについては、解析が小孔形成領域の一部(β8)に留まっており、今後は膜貫入領域全体(β8-loop-β9)に拡げて、トキシン小孔の構造とイオン透過性の関係、さらにはイオン選択に関わる機能構造の特定を進める。またMpp46Abのようなアエロリシン型構造の殺蚊トキシンだけでなく、Cry4AaやCry11Baのような3ドメイン型の殺蚊トキシンについても同様の解析を進め、ホットスポットや機能構造の特定を進める。 トキシン小孔の性状で殺虫活性を評価する系を構築するためには、トキシン小孔の電気生理学的解析の効率化が必要となる。そこでアガロースで作製した支持体を用いて人工脂質膜を簡易に作製する方法の開発と、トキシン小孔解析への応用などデバイス開発に関わる基礎的な研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は「変異体ライブラリの作製」と「蚊幼虫を用いる殺虫活性の解析」、「変異体トキシン小孔の電気生理学的解析」で構成されている。一昨年度は蚊幼虫の飼育やバイオアッセイなどで構成される「蚊幼虫を用いる殺虫活性の解析」の段階がコロナ対応で滞ったが、昨年度からは状況が改善して研究が大きく進展した。しかし本来の予定に追いつけていない部分が未だに残っており、次年度使用が生じた理由になっている。問題はすでに解決されているので、残額は次年度に予定通り使用される見通しである。
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