研究課題/領域番号 |
22K05678
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石丸 善康 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (50435525)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / ROS / dual oxidase / 抗酸化酵素 / 寿命 / 老化 / Myoglianin / コオロギ |
研究実績の概要 |
生物の寿命と老化が酸化ストレスによって影響を受ける可能性が指摘され、その背後には細胞内での活性酸素種(ROS)レベルの上昇と抗酸化能力の低下が関与していると示唆されている。本研究では、長寿モデルとしてMyoglianin(Myo)遺伝子のノックアウト(KO)系統やRNAi個体を用いて、ROSレベルを制御する分子機構の解明を目指している。 Myo KO個体と野生型のRNA-Seqデータから、ROSの代謝に関わるNAD kinase(NADK1、NADK2)とisocitrate dehydrogenase(IDH1、IDH2、IDH3α、IDH3β)の発現変動を明らかにした。各遺伝子に対するRNAi実験では、特にNADK1、NADK2、IDH3αで生存率が著しく低下し、平均寿命が50-80%短縮されることが示された。また、Duox RNAiでも同様に生存率の低下が観察された。 さらに、ROSの一種である過酸化水素(H2O2)の検出結果から、若齢から終齢幼虫期におけるH2O2濃度の上昇が示唆され、成虫期でも増加傾向が見られた。一方、MyoのRNAiを行った若齢幼虫では、H2O2濃度の上昇がほとんど見られず、一定の濃度で維持されることが示された。 これらの結果から、MyoがROSの産生と分解に関与する因子を介してH2O2濃度を制御している可能性が示唆された。本研究成果は、生物の寿命と老化に関与する酸化ストレスを引き起こす分子機構を理解する上で重要な進展を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RNA-seqデータから、酸化ストレス関連因子を探索し、RNAi機能解析でその生存率と寿命に影響が示された。さらに、Myoがこれらの因子を制御し、H2O2濃度の上昇に関与している可能性が示唆された。 今後の計画では、Myo KO個体でROS関連因子のRNAiまたはCRISPR/Cas遺伝子ノックイン解析を行い、KO長寿表現型のレスキュー効果を調査する予定であった。また、SA-β-Gal活性とROS濃度変化を測定・解析して、寿命制御メカニズムの理解を深める予定であったが、まだ至っていないため、当初の予定よりやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
MyoのROSレベル制御メカニズムが寿命に影響する可能性が示唆された。従って、令和6年度の研究では、Myo KO個体を用いてその長寿表現型のレスキュー実験を行う。ROS関連因子のRNAiまたはCRISPR/Cas遺伝子ノックイン解析をMyo KO個体で実施し、レスキュー効果を評価する。また、SA-β-Gal活性とROS濃度を測定し、寿命制御に関与する分子機構の解明を目指す。 さらに、成熟成虫と高齢成虫におけるSmall RNA-Seq解析を実施し、miRNAの網羅的な発現プロファイルを比較解析する。これにより、加齢に伴って特異的に発現あるいは抑制されるmiRNAを探索し、miRNAが生物の老化プロセスと寿命の制御にどのように関与するか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) Myoの制御下で寿命に関与するROS関連因子のRNAiスクリーニングおよびH2O2濃度の制御機構の解明を優先して進めている。このため、予定していたMyo KO表現型のレスキュー実験が遅れている。令和5年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に変更はなく、今後の研究に取り組む予定である。前年度の研究費と合わせて、今年度の研究計画を実施していく。 (使用計画) 使用計画は以下のとおりである。 Myo KO個体において、ROS関連因子のRNAiまたはCRISPR/Cas遺伝子ノックイン(過剰発現)解析を実施し、KO表現型のレスキュー効果を評価する。また、SA-β-Gal活性とH2O2濃度を解析して、寿命に関与する分子機構を明らかにする。 成熟成虫および高齢成虫において、Small RNA-Seq解析を行い、miRNAの網羅的な発現プロファイルを比較解析し、加齢に依存して特異的に発現あるいは抑制されるmiRNAを探索する。老化と寿命に関連する可能性がある候補miRNAの機能性スクリーニングを実施する予定である。
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