研究課題/領域番号 |
22K05680
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
龍田 勝輔 佐賀大学, 総合分析実験センター, 助教 (00565690)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ハスモンヨトウ / 味覚 / 農業害虫 / 塩 / 摂食抑制効果 |
研究実績の概要 |
ハスモンヨトウ幼虫は100種類以上もの農作物を加害する広食性昆虫であり、花卉・蔬菜類の農作物を加害する重要害虫であるにも関わらず、その摂食行動を制御する味覚・嗅覚等の化学情報受容メカニズムは未解明である。昆虫が植物に含まれる成分(味物質)をどのように味わうのか、その味情報が食べる行動にどのように結びつくのかを明らかにすることは、昆虫の基本的な感覚機能を知るという基礎的研究であるとともに、味覚を利用した害虫防除の一助といった応用的研究への可能性を持つ。本研究は、特に、他種生物が好む低濃度塩を広食性昆虫であるハスモンヨトウ幼虫が嫌って食べないことを発見しており、塩受容というシンプルな味覚受容を利用した作物加害抑制系の構築を目指している。 摂食行動実験および電気生理実験により基礎的な味覚受容を推定した結果、本種幼虫は他種昆虫とは異なる味覚受容システムを持つことが示唆された。特に、味覚応答が既知である昆虫と比較して水および塩に対する感受性が高いことが明らかとなった。加えて、本種幼虫がもつ味覚感覚子の摂食行動制御に関わる機能を推定し、Maxillary palpによる塩受容が塩による摂食抑制効果に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本種幼虫口器に局在する主要3種(MP: maxillary palp, Ss-1: sensilla styloconica1, Ss:2: sensilla styloconica2)の味覚感覚子のうちMPが最も応答感度が高く、低濃度塩による摂食行動抑制に寄与していると示唆された。加えて、3種の感覚子とも水・糖・塩・苦味物質対する応答には差がないものの、その応答能(活動電位発生数)には差異が認められたため、摂食行動において異なる役割を持つことが予想された。そこで、MPのみを切除した幼虫を用いて糖・塩・苦味物質を対象とした摂食実験を行った結果、MP切除幼虫は未切除個体に比べて塩含有餌の摂食量増加を示した。これらの結果により、本種幼虫の摂食行動において、MPによる塩受容シグナルが行動制御に影響し、糖・苦味物質・水受容はSs-1, 2もしくは3種感覚子の受容シグナルが影響すると考えられた。 加えて、電気生理実験により本種幼虫はこれまで昆虫味覚電気生理実験にて確認された先行研究結果と比較しても、水に対しての高い応答能を示した。本種幼虫口器より得られた高い水受容シグナルが行動および生理にもたらす影響は不明であるが、今後の興味深い課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基礎的目的である「広食性昆虫(ハスモンヨトウ)の味覚受容解析」のため、電気生理学的手法による味覚受容器官内部の味細胞の機能解析を行う。これまでに本種幼虫口器に局在する3つの味覚感覚子の電気生理実験を実施しており、塩受容にもっとも重要な感覚子を同定している。今後はこれらの味覚感覚子に発現する味覚受容体およびイオンチャネルを同定し分子レベルでの解明を目指すため、RNA-Seqを進める。応用的目的である「昆虫の味覚受容システムを利用した新規害虫防除法」を検証するため、塩を添加した人工飼料・植物葉粉 末を用いた摂食実験を行う。本種幼虫の高い水および塩受容が摂食行動にどのように影響するのかを調べるため、血中塩濃度による摂食行動の変動を検証する。本研究の発展的目的である「ハスモンヨトウ系統による塩感受性の差異の検証」を行うため、本種の国内におけるサンプリング、DNA精製とRAD-Seq解析、そしてBio Linuxを用いた系統解析を行う。国内のサンプリングは九州・沖縄を中心に実行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍等の影響により、サンプリングを主軸とした実験計画において遅延が発生した。また、RNA-Seq等の実験および実験環境整備においても他基金の獲得等により、本基金の使用額に大幅な変更があった。今後はこれらの実験計画に本基金を使用予定である。加えて、これまで使用してきた電気生理実験の解析ソフトウェアはフランスの研究者が開発したものを無償で利用してきたが、本ソフトウェアの更新は2015年に終了しており、新規ソフトウェアへの更新が必要である。よって、次年度使用額は主に新規ソフトウェアの購入資金とする予定である。
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