研究課題/領域番号 |
22K05683
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
清水 伸泰 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 教授 (30434658)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ササラダニ亜目 / コイタダニ科 / 防御物質 / シアン化水素 / 生成機構 / 生合成 |
研究実績の概要 |
ササラダニ類の化学防御に注目し、防御物質の探索を行うとともに、生成機構の解明を目的とする本研究において、今年度は以下のような実績をあげた。 1)昨年度の実績としてササラダニ亜目コイタダニ科に属するセンダンササラダニPhauloppia adjectraの油腺分泌物からセスキテルペン類のほかにシアン化合物を、また同科のサカモリコイタダニOribatula sakamoriiからはシアン化合物の類縁体とセスキテルペン類をそれぞれ同定した。シアン化合物を防御物質とする節足動物としてヤスデ類がよく知られているが、ヤスデはシアノヒドリンであるマンデロニトリルを分泌腺の貯蔵嚢に貯めて、体外に放出する際に反応室のリアーゼと混合することでシアン化水素が生成する。一方、ササラダニからシアン化合物は検出されたものの、実際にシアン化水素が生成するかは不明である。そこでササラダニ亜目コイタダニ科に属するセンダンササラダニ由来のシアン化合物の標品を用いて、シアン化水素への分解機構の検証を行ったところ、未知の酵素が関与していることが強く示唆された。 2)センダンササラダニの成虫および若虫におけるシアン化合物の生成量を定量したところ、本化合物は成虫特異的であることが判明した。 3)サカモリコイタダニからはセンダンササラダニ由来のシアン化合物の類縁体が見つかった。しかし、生息密度が低かったので、効率的に採集できる地点、採集方法の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
センダンササラダニ成虫および若虫はケヤキの樹皮裏から採集した。ダニの油腺分泌物は成虫および若虫をヘキサンに浸漬することで抽出し、その抽出液をGC-MSで分析した。その結果、成虫からmandelonitrile octanoateが検出された一方で、本化合物は若虫からは検出されず成虫特異的な成分であることが明らかとなった。さらに成虫をすり潰すことによってシアン化水素が生成することをピクリン酸試験紙法で確認できたことから、シアン化水素の生成には酵素の関与が強く示唆された。サカモリコイタダニはセンダンササラダニと生息場所が異なり、腐植土やコケ中から採集できるが、生息密度は非常に低い。シアン化合物の定量や酵素実験を実施するためには頭数が不足していることから、随時、研究協力者により大阪、富山などから土壌やコケなどの材料を提供してもらい、ダニの分離作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1) ヤスデ類がもつシアノヒドリンは特有のリアーゼによってシアン化水素に分解される。センダンササラダニで検出したシアン化物はエステルであり、シアン化水素に分解されるには2段階を要する。これらの反応に関与する酵素を段階的に明らかにしながら、シアン化水素への分解機構の全容を解明する。 2) センダンササラダニとサカモリコイタダニの間で異なるシアン化合物が検出されることからコイタダニ科内で種毎に防御物質を分析する必要がある。野外から土壌やコケの採取を進め、多種のコイタダニ科ダニの収集に努める。 3) シアン化物の自然生態系での役割の一端を明らかにする。捕食者に対する化学的な防御効果をはじめ、種内のフェロモン作用の有無等の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
備品、消耗品の購入を他の研究費で補えたため、当初予定していたよりも使用額が少なくなった。繰り越した分は次年度、論文投稿費用、委託費、人件費、旅費、学会参加費などに切り替えて使用する予定である。また今年度、ササラダニを成長段階に分けて次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現の網羅解析を予定していたが、フィールド調査でダニ材料が予定通りに収集できなかったため、繰り越した分を今年度の実施費用に充てる。
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