研究課題/領域番号 |
22K05688
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
矢口 貴志 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (60361440)
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研究分担者 |
伴 さやか 千葉大学, 真菌医学研究センター, 助教 (90834664)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Aspergillus niger / オクラトキシンA / アゾール薬 / クエン酸 / MALDI-TOF MS |
研究実績の概要 |
クロコウジカビの 1 種、Aspergillus niger はクエン酸生産など工業的に有効利用される反面、 穀物など食品を汚染し、ヒト、動物、植物に対し病原性を示す。近年、本種を含む関連種が 分子系統的に再編され、多数の新種が報告されている。これらの種における詳細な形態、有 機酸の産生など有効性およびカビ毒生産性、薬剤に対する感受性などの有害性、ゲノム情報 を勘案した検討はなされていない。千葉大学真菌医学研究センターでは、臨床および環境由来の A. niger および関連種を多数収集し、遺伝子配列に基づく同定などの菌株情報を整備、 保存している。国内において、多数の臨床株を保存し研究に活用しているのは当センターのみである。本研究では、これら保存株と新たに収集した菌株を使用して、有機酸、カビ毒産 生能、薬剤感受性を測定し、ゲノム情報の取得・活用による有機酸、カビ毒生合成遺伝子の 有無、薬剤耐性機構の解明により、各菌種の遺伝的な多様性の評価を実施する。これらデー タを保存菌株に付加することで資源の高品質化を図り、食品衛生、薬剤開発など応用研究に提供する。さらに、MALDI-TOF MS によるクラスター解析を加えることにより菌株の品質管理、有用株と有害株の識別の効率化を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、本種を含む関連種が分子系統学的に再編され、多数の新種が報告され、A. niger およびその関連種 A. tubingensis は再分類されている。これまで分類に使用されている calmodulin、b-tubulin 遺伝子では既知種とは区別される分岐に含まれる種があることが判明した。そこで、全ゲノムを利用した多遺伝子による解析を試みた。 千葉大学真菌医学研究センターの保存株(IFM 株)、NCBI 登録株、Silva et al. の解析株 計 276 株からcaM, benA, rpb2 遺伝子配列の重複を除いた 126 株を選択し、jModelTest2 モデルを使用して核酸を置換し、Species Tree And Classification Estimation, Yarely (STACEY) 法で系統解析を実施した。これまでAspergillus niger 関連種 は 10 種 + α と考えられていたが、STACEY 法で系統解析ではこれらの種を3種に統合する結果であった。従来の形態的な特徴で種を識別した場合、集落の色調が黒色と茶褐色、分生子の表面構造が刺状と滑面の相違から、A. niger と A. lacticoffeatus とは識別されていたが、STACEY 法ではこの 2 種は同種と判断された。そこで、ゲノムから 200 個の遺伝子をランダムに選び、それぞれ 20 個の遺伝子で10回の独立したSTACEY解析を行った。その結果、A. niger と A. brasiliensis の系統では1種のみ、A. tubingensis の系統では 1-4 種が矛盾なく定義された。すべての結果と実際的な影響を考慮した結果、我々は Aspergillus niger 関連種の改訂版分類法として 6 種を含むことを提案した。
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今後の研究の推進方策 |
STACEY解析により分類学的な位置づけが確立したA. niger 関連各種において、正確に同定・分類された菌株を使用して、オクラトキシンA産生能、アゾール薬に対する感受性を調査し、健康に対するリスク評価を行う。 まず、千葉大真菌センターの保存株(IFM株)を使用する。各種抗真菌薬剤(キカファンギン、カスフォファンギン、アンフォテリシンB、フルシトシン、フルコナゾール、ミコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾール)に対する感受性試験を、酵母様真菌DP(栄研化学(株)製)を使用して、CLSI法に準じて微量液体希釈法で実施する。特にアスペルギルス症の治療に使用されるボリコナゾール、イトラコナゾールの耐性菌に着目し、A. fumigatusにおいて解明されているステロール合成過程に必須の反応である14脱メチル化反応を触媒するP450酵素CYP51の遺伝子変異の有無、薬剤排出ポンプの発現などの検討を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響などで、使用を予定していた物品が欠品、もしくはメーカーにおける製造の遅れで、年度内に納品できなかったため。また、海外の学会に現地参加予定の1名がオンライン参加となったため。 次年度は、早めに発注し、必要な物品を確保して実験を行う予定である。
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