研究課題/領域番号 |
22K05705
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
高橋 俊守 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 教授 (20396815)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 国立公園 / 小規模生態系拠点 / 協働型管理運営 / シチズンサイエンス / 市民参加モニタリング / 鳥獣被害 / 外来生物 |
研究実績の概要 |
国立公園のうち、手厚い管理が実施されている特別保護地区は15%に満たない。それ以外を占める第1種~第3種特別地域及び普通地域に内包される比較的規模の小さな生態系拠点(以下、「小規模生態系拠点」とする)においては、地元自治体や自然保護団体、自然愛好家、ボランティア等の多様な主体に管理運営の取り組みが委ねられているのが実態である。このため、小規模生態系拠点においては、多様な主体による協働型管理運営を促進するための具体的な仕組み作りが極めて重要である。 筆者は、小規模生態系拠点において研究者が実施するような調査研究を、市民が参加可能なモニタリング手法として実用化することが、協働型管理運営を促進するための科学によるブレークスルーになる可能性があると考えている。そこで、調査フィールドとしている日光国立公園において、喫緊の課題となっているシカ被害や外来生物対策に適用可能な、地域内外の多様な主体が関係する参加型モニタリング手法を研究開発する。これらを関係者の協力を得て社会実装することで、協働型管理運営を促進する効果を評価することを研究目的とする。 研究初年度は、自然公園の管理運営に取り組むビジターセンター職員やボランティア、NPO団体等の関連ステークホルダーを対象にアンケート調査を実施し、国立公園関係者57名、県立自然公園関係者46名、合計103名から有効回答を得ることができた。アンケート調査から、大学や研究者による関与の度合いが低い実態や、科学的知見が協働体制に影響を及ぼす可能性があることを示唆する結果が得られている。一方で、特定外来生物オオハンゴンソウの駆除対策に取り組む地域関係者から聞き取りを行い、社会実装可能なモニタリング方法について具体的に検討した。モニタリング方法については開発を進めており、環境省日光国立公園管理事務所にも説明をしながら、社会実装の準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、初年度に対象とする小規模生態系拠点の抽出と、参与研究を実施するための多様な主体との連携関係を構築するとともに、従来の管理運営のあり方や課題を整理する。2年目は、既往の手法をもとにモニタリング手法を再検討し、得られた科学的知見を共有するための空間情報プラットフォームを構築する。一方では、協働型管理運営を構築する際の課題を明らかにするためのアンケート調査を実施する。3年目は、進捗しつつある科学的知見を関係者にフィードバックすることで、生態系被害の管理や協働型管理運営の構築に与える影響を評価する。また、関係者のボトムアップの取り組みにより運用可能な調査項目と手法を選定し、PDCAサイクルに則った参加型モニタリングを試行する。4年目は、改善した手法をさらにフィードバックするとともに、全国の国立公園において実用可能な参加型モニタリング手法の一般化について検討することとしている。 初年度は、小規模生態系拠点として研究対象とする候補地を選定するとともに、各拠点の関係者との連携関係を構築することができた。シカについては、現地調査を実施して、塩原地区における植生被害の状況を把握するとともに、カメラトラップによって個体数密度の推定を行った。オオハンゴンソウについては、日光地区、那須地区において駆除活動に取り組む関係団体と連携し、駆除活動に参加しながら効果的なモニタリング方法について聞き取りを行った。社会学的調査については、国立公園に加えて県立自然公園の関係者を含めて関係団体を把握するとともに連絡網を整備した上で2年目に実施予定だった分も含めてアンケート調査を実施することができた。なお、小規模生態系拠点の空間情報プラットフォームの構築のため、ドローンを用いた観測を予定していたが、法令の改正により機体の認証に3ヶ月以上を要したため、撮影は次年度に実施することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度は、社会学的調査について、2年目に実施予定だった分も含めて順調に実施することができた。このため、地域団体を把握するとともに、連携関係を構築することができた。今後はモニタリング方法を研究開発し、これらの関係団体に説明しながら社会実装を進めることとしている。このため、国立公園管理者の環境省日光国立公園管理事務所に説明を行った後、説明会を開催して関係団体に導入していく予定である。2年目は、得られたモニタリング結果を行政機関や関係団体で共有する方法について検討を行い、協働型管理運営に効果的な方法を見出すための参与観察を行う予定である。これらの技術的な方法として、地理情報システムとネットワーク環境を活用する予定である。 初年度はコロナ禍の影響もあり、県内の日帰りでの調査を主体として研究活動を行ったが、2年目は県内外及び国内外にも研究範囲を広げて調査研究や発表の機会をつくりたい。また、関係団体から寄せられる関心や期待も高いため、研究のための研究で終わらないように、継続的な実施を実現するための方策についてもあわせて検討していくことが課題となるものと認識している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ドローン機体の登録にかかる期間が長期にわたったことにより、観測機器の購入を次年度以降にしたこと。さらに、コロナ禍により学会等の集会が概ねオンラインで開催され、調査活動も県内日帰りで実施したことによる。
|