研究課題/領域番号 |
22K05719
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
坂本 洋典 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物多様性領域, 研究員 (70573624)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 港湾 / 外来生物 / 非意図的持ち込み / 極限環境 / アリ |
研究実績の概要 |
アスファルトとコンクリートで舗装された港湾は、極めて人為的な環境である。また、常に強光・強風に晒される極限環境である。一方、多数の物資の経由地である特性上、港湾には常に多様な生物の非意図的な持ち込みがなされていると考えられ、国内外由来の外来生物の港湾における発見事例も数多い。本研究では、人工的な極限環境である港湾に、新たな生態系が創出される機構を、節足動物を中心として解き明かすことを大きな目的とする。 本年は、港湾に設置した粘着トラップによるモニタリングより、節足動物18目うち昆虫13目といった多様な生物が港湾に生息していることを明らかにした。とくにアリ科昆虫については、4亜科28種にわたる幅広い種類が港湾において確認できた。 港湾で確認されたアリ種には、港湾に近隣した地域においてはまれにしか見られない種が複数種含まれており、他地域からの物流を介した港湾への非意図的持ち込みによる移入が示唆された。 研究協力者によるサンプリングを含め、10都府県において国際港湾を含む15港湾におけるアリ種のモニタリングおよびサンプル収集を実施した。得られた結果から、広域分布し、遺伝子解析による移入機構の分析に適していると考えられるモデルアリ種を複数種選定し、予備的な遺伝子解析を進めている。また、海上輸送コンテナ内からコウチュウ目のゾウムシ、カメムシなど、アリ以外の分類群の昆虫種を発見し、これらの生物種が非意図的に港湾に持ち込まれていることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目の目標は主として港湾における節足動物相の概要把握と、遺伝子解析による移入経路の推定のためのモデル生物種の決定とそのDNAデータの取得であったが、コロナ禍により、節足動物の個体数が増加する春から秋にかけての港湾地でのモニタリングを十分に実施することが出来なかった。しかし、粘着トラップを用いて実施した部分的なモニタリングの結果から、18目にわたる広い分類群の節足動物が港湾に生息することを明らかにすることができた。また、研究協力者の尽力を得て、10都府県15港湾からのサンプルを収集し、複数の港湾に生息しているモデル生物種となりうる昆虫種であるアリ類の種を特定し、解析手法を準備することができた。以上の理由により、モニタリングの実施にコロナ禍による負の影響があったとは言え、今後の研究の進捗上大きな問題はなく、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
一年目にモニタリングの実施が難しかった港湾、およびそれに近接する環境において、主として粘着トラップおよび目視によるモニタリングを実施して生物相の把握を行う。複数の港湾から生息が確認されたアリ類については侵入経路を調べるためのモデル生物として、DDBJやBOLDなどの公共データベース上に塩基配列情報が多数蓄積されているCytochrome Oxidase subunit I (COI)遺伝子などによる遺伝子解析を行い、港湾内に生息している個体群の由来を検証する。同じサンプルを用い、昆虫の体内に暮らしている共生微生物についても遺伝子解析を実施し、港湾内での多様性を検証する。これらの結果と、港湾の設立年代・物流地域などのデータから、港湾生態系が形成される要因を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、節足動物の個体数・種類数が増加する春期から秋期までの間、実施を予定していた港湾におけるサンプリングおよびサンプルを用いた遺伝子解析が困難であったため、次年度使用額が生じた。 コロナ禍が一定の収束を迎え、サンプリングの実施に支障が生じなくなった本年度において、サンプリング実施のための旅費および消耗品、および得られたサンプルを用いた遺伝子解析に主として使用する計画である。
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