研究課題/領域番号 |
22K05751
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
市橋 隆自 九州大学, 農学研究院, 准教授 (60594984)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | つる植物 / 冷温帯 / 通導 / 根圧 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,温帯林に生育する木本性つる植物と樹木を対象に,冬期の低温に対する水分通導機能の反応を明らかにすることを目的としている.この目的のため,樹木とつる植物を対象に,樹液流速と茎通導度の季節変化,そして春先の根圧モニタリングを行い,さらにその結果を冷温帯と暖温帯の2林分で比較することを目指している. 今年度は冷温帯林の樹木・つる植物において春先に発生する根圧観測法の開発に注力した.根圧は,冬の間,内液の凍結・融解に伴い空洞化した導管に再び水を満たして通導機能を回復させるものであり,本研究課題において重要な項目である.試行錯誤の結果,径2.5 mmの中空ネジを幹に1~2 cmの深さまでねじ込んで固定,ネジ頭に水を満たしたチューブを接続し,そのチューブを圧力センサに接続する方法で計測に成功した.2月からは野外で樹木9種,つる植物4種,各種3個体ずつを対象にモニタリングを開始し(4月末まで継続),種ごとの根圧の有無とその大きさ,時間変化を記録することに成功した.樹木のミズキ,ミズメとつる植物のサルナシにおいては最大で200 kPa(高さ20mまで水を押し上げる強さ)程度,樹木のアカシデ,ヒメシャラ,つる植物のマツブサにおいては最大で100~150 kPa程度の根圧が観測された.他の樹木5種,つる植物2種においては明瞭な根圧は観測されなかった.先行課題の結果と併せ,冬期の寒冷への対処法として,当年の導管のみに通導を頼る、あるいは展葉前に根圧を発生させて通導を回復させるという、異なる方法があり,どちらのパターンもつる植物,樹木の双方に現れた.根圧を発生させないが古い導管も機能する(即ち冬期を越えてもそれなりに通導機能を維持する)パターンは樹木のみに見られたが,この点を除き,つる植物と樹木の間の顕著な違いは現時点で見つかっていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
春の開葉前の根圧は冷温帯樹木の生態において重要な意味を持つものの,その測定法はあまり普及しておらず,特に長期間の連続モニタリングの情報はほとんど見当たらなない.自身でもこれまで成功しなかったのだが,今回様々な試行錯誤を通してモニタリング方法を確立し,野外で実践できたことは非常に画期的な進歩であった.
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今後の研究の推進方策 |
先行課題から継続した研究により,予定していた冷温帯種のデータはほぼ取得できた.今後はこれまでの結果をまとめて発表するとともに,暖温帯林での調査を開始する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,先行課題から継続である冷温帯でのデータ取得を完成させることを目指したため,新たな支出は予定よりも少なかった.次年度は予定どおり暖温帯林で新たに調査を開始するので,その初期費用として使用する予定である.
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