研究課題/領域番号 |
22K05762
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
天野 良彦 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (80273069)
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研究分担者 |
田川 聡美 信州大学, 工学部, 助教(特定雇用) (20911952)
殿塚 隆史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50285194)
水野 正浩 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (60432168)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | バイオマス / セルラーゼ / マンナナーゼ / 糖質加水分解酵素ファミリー5 / 基質特異性 / 酵素の立体構造 |
研究実績の概要 |
GHファミリー5に分類されるエンドグルカナーゼ(Cel)とマンナナーゼ(Man)の基質特性の違いは,明確な立体構造の違いに基づいて説明可能である。一方,エンドグルカナーゼ内の基質特異性の差異については,より細かな構造の違い(ループ構造の違い,特定のサブユニットを認識するアミノ酸の違い等)または,全体構造のフレキシビリティによる可能性があると考えられる。そのような観点から令和5年度はマンナン系の天然型基質を調製すると共に,市販基質を用いた基質特異性の違いを明らかにすることを行った。そのため以下の各項目について実験を進めた。 ①針葉樹(スギ、カラマツ)由来の天然型マンナン系基質調製:イオン液体抽出法によりマンナン及びキシロース,アラビノース等を多く含む画分を調製した。現在,その構造を解析中である。②4種の菌由来のファミリー5に属する9種類の酵素の基質特異性の解明:遺伝子組換えによる酵素の調製を行い,6種類の酵素の精製及び基質特異性の解明を行った。③精製酵素の結晶化:TcCel5Bについては,合成遺伝子を用いた大腸菌による発現系の構築を行い,現在可溶化条件の検討を行っている。 ファミリー5に所属する酵素のうち、セルラーゼに分類されるものは、β-1,4結合の切断の選択性は高いものの、構成糖についてグルコースであるか、マンノースであるかの点においてはその認識があいまいな酵素が存在することを明らかにすることができた。また、セルロース系基質においても、可溶性の生成物等が異なる点についてはさらなる検討が必要と考えている。引き続き、酵素の立体構造面からその違いを明らかにするように継続して実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度までに調製したTalaromyces cellulolyticus由来のTcCel5B,Irpex lacteus由来のIlCel5A,IlCel5B,IlCel5C,IlCel5Dに加え,令和5年ではI. lacteus由来のマンナナーゼIlMan5Bの組換え体の調製に成功した。基質特性の調査から,IlCel5A,IlCel5B,IlCel5Cはセルロース系基質(CMC,リン酸膨潤セルロース,Avicel)対して特異的に作用する典型的なエンドグルカナーゼであるのに対して,IlCel5Dはセルロース系基質に加え,直鎖マンナン及びローカストビーンガム等のマンナン系基質にも作用することを明らかにした。また,IlMan5Bは直鎖マンナンには作用するものの,セルロース系基質には全く作用しないことから,マンナンのみに作用する典型的なマンナナーゼであることが明らかとなった。これにより,GH5に属する酵素のうち,セルロース系基質にのみ作用する酵素,マンナン系基質にのみ作用する酵素,両方の作用する酵素が揃い,生化学的及び立体構造的に解析することが可能となった。 針葉樹からの天然型基質の調製については,イオン液体を用いることでマンナン及びキシロース,アラビノース等を多く含む画分を調製することに成功している。一方で,草本や広葉樹と比較すると細胞壁成分のイオン液体への可溶化率が低いこと,またその要因の1つとしてはグルコマンナンのイオン液体への溶解性の低さである可能性が示された。このことは,植物細胞壁におけるグルコマンナンと他の多糖との複雑な相互作用を示唆するものであり,針葉樹由来のヘミセルロースの酵素分解機序を解明するための基質になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
セルロースおよびマンナン分解における、構成する糖の2位の認識の厳密性については、同じ糖質加水分解酵素ファミリーに属しているものの中でもバラエティーがあることを明らかにした。立体構造予測によるファミリー分類では、その類似性により行われているが、細かな基質認識については、厳密な酵素基質複合体構造の解析が必要となる。そのための酵素及び基質に関する知見が蓄積できた。そこで、天然型の基質を用いた基特異性の差異の把握と、酵素の立体構造からみた、特異性の要因となる構造を明らかにする。そのため主に、以下の課題に取り組む予定としている。 ①針葉樹(スギ、カラマツ)由来の天然型マンナン系基質調製:抽出した多糖類の酵素による断片化と断片のMALDI TOF-MS分析、②4種の菌由来のファミリ―5に属する9種類の酵素の基質特異性の解明:天然からの基質を用いた酵素の基質特異性の解析、③ 精製酵素の結晶化:共結晶の作成と部位特異的による変換酵素の作成、④ X 線回折による立体構造の解析:立体構造解析と、既発表の類似した酵素の構造比較。 これらの課題から、酵素の基質特異性の厳密さと曖昧さの違いを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者の殿塚先生においては、研究費を主に結晶構造解析に関する消耗品に使用しているが、研究の進捗状況により2023年度は以前に購入してあった試薬および器具で間に合ったため繰り越しが発生した。この試薬および器具は2024年度に購入し使用する予定である。
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