研究課題/領域番号 |
22K05764
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 聡一 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (50730321)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 木材 / 薬液含浸 / 水撃作用 / 耐久性 / 保存 / 機能性付与 |
研究実績の概要 |
薬液含浸は、木材の欠点改善や特性付与に欠かせない。しかしながら、一般的な含浸処理手法である加圧注入法では、木材の処理ムラや圧潰が生じ、処理時間が長くなることが問題だっ。そこで申請者は、水撃含浸法による木材への液体浸透の促進を考えた。同手法では、木材を入れた半開放容器を液体で充填して打撃すると水撃作用が生じ、それによって木材に液体浸透することがわかり、木材の圧潰も起こりにくいことが示唆された。これは、水撃作用により木材中の浸透阻害部(閉鎖壁孔やチロース)が貫通されたためであると推察されたが、その機構は明らかではなかった。また、水撃作用が液体浸透に及ぼす効果は実用的にも十分とはいえなかった。本研究の目的は、木材の水撃含浸法について液体浸透機構の解明を目指すと同時に水撃作用による液体浸透の効果的な促進方法について装置開発を進めることである。 令和5年度には、令和4年度に試作した木材に水撃作用(圧力波:パルス波)を加えるための水撃付加システムの見直しと補強を行った。また、水撃付加システムを用いて水撃作用の付加スケジュールが木材への液体浸透に及ぼす影響および木材組織構造(浸透阻害部)貫通の寄与を確かめた。具体的には、木材にはスギとキリを用いて、様々な水撃付与の回数、水撃作用の強さ、水撃付与のタイミングについて検討し、液体浸透を効果的に促す方法および液体浸透機構について検討した。その結果、キリでは、水撃付与回数と水撃強さを増加することによって、液体浸透促進の効果が増大する傾向が得られ、スギでは、水撃付与回数と水撃強さを増加させても、ある程度で液体浸透効果は頭打ちになった。このことから、スギはキリと比べて、細胞壁によって水撃が深部まで伝わりにくいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度には、ほぼ予定通り水撃作用の付加スケジュールが木材への液体浸透に及ぼす影響および木材組織構造(浸透阻害部)貫通の寄与を確かめることができた。これは、木材への液体浸透が促進される水撃作用の条件を探すために、より耐久性の高い水撃付加システムが求められていたが、設計の見直しをによって、水撃付加システムの耐久性を大幅に向上させることに成功し、木材にたくさんの水撃作用を付加できることができるようになったためである。また、令和5年度には水撃付加システムの耐久性向上のための方法が見いだされるなど、実用化に向けた知見やノウハウが蓄えられてきている。以上の理由から、本研究は学術的にも実用的にも順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、水撃作用による組織構造の影響についてさらに詳細な検討を行う予定である。具体的には、水撃作用を付与することによる組織構造の時間変化を明らかにするために、マイクロスコープによる組織構造観察を組み合わせた水撃含浸実験を行う予定である。これにより、水撃作用によって組織構造が受ける影響を可視化しつつ、時系列で整理していき、水撃含浸法における液体浸透メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
水撃付加システムは、繰り返し衝撃力を受ける機構だであり、予備実験により、装置部品の破損・消耗がかなり多く発生していたため、交換部品代を計上していたが、システムの設計を見直すことでシステムの根本的な欠陥が判明し、根本的欠陥を生じさせないシステムへと改良することができたため、ほぼ装置部品が破損しなくなり、交換部品費用がかからなくなった。一方、次年度実施予定の水撃作用が組織構造観察に及ぼす影響の調査について、当初想定していた光学顕微鏡では観察が難しいことがわかり、マイクロスコープのレンタル費用が必要となったため、次年度使用額が生じた。
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