研究課題/領域番号 |
22K05765
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南 英治 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (00649204)
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研究分担者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80224864)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 木質バイオマス / リグノセルロース / バイオリファイナリー / 超臨界流体 / リグニン / セルロース |
研究実績の概要 |
木質バイオマスの水添加超臨界メタノール処理において、270℃ではマトリックス成分(リグニン及びヘミセルロース)が、350℃ではセルロースの分解が進行した。また、10MPaではヘミセルロース、20MPa以上ではリグニンの分解・溶出が促進され、これは水とメタノールの密度変化の違いによるものであることが示された。これらの成果から、温度・圧力を制御することで、細胞壁構成成分の分解及び成分分離をワンプロセスで実現できる可能性が見いだされた。 また、木材中のウロン酸と塩を形成している金属カチオンの影響を調べた結果、脱塩で金属カチオンを除去すると糖収率が約3倍に増加する一方、Mgで置換するとリグニン由来モノマー収率が約2.5倍に増加することを発見した。このように、ごく簡単なイオン交換によって生成物の選択性を大幅に制御できることが見いだされ、超臨界メタノール技術による木材からのケミカルス生産の可能性が大きく前進した。 さらに、超臨界メタノール処理前後のスギ木片をエポキシ樹脂包埋後、ダイアモンドナイフ及びウルトラミクロトームで面出しし、走査型プローブ顕微鏡の位相モードで観察した。その結果、ナノスケールでスギ試料表面の粘弾性分布を観察することができ、超臨界メタノール処理によってマトリックス成分が分解除去され、セルロースミクロフィブリルが残存する様子が確認された。この手法を用いることにより、今後、上記の金属カチオンが分解に与える影響をナノスケールで解明するなどの成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、走査型プローブ顕微鏡による観察には、試料調製方法や観察方法などのノウハウ構築により長い期間を要すると考えていた。しかし、幾つかの手法を試みる中で比較的短期間でナノスケールでの粘弾性分布の観察に成功し、方法を早期に確立することができた。 また、木材中の金属カチオンを脱塩あるいはMg置換することによって、想定以上に多糖及びリグニン由来モノマーの収率改善の効果があることが判明した。これにより、温度、圧力、溶媒のみならず、金属カチオンによる分解反応の制御の可能性が見いだされ、研究の幅が多いに広がった。
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今後の研究の推進方策 |
超臨界メタノール処理における水の添加は木材の分解速度を向上させるものの、分解速度の向上が糖収率の改善には繋がっていないことが今年度に示された。モデル化合物による検討の結果、水の添加は多糖の加水分解のみを促進しており、不安定な還元糖を生成したために糖収率が改善しなかったものと示唆された。従って、超臨界メタノールの長所、すなわち、メタノリシスにより安定な非還元糖を生産すること、高い溶解性によりリグニン由来モノマーを高収率で回収できることをより活かすためには、水をより少なく、あるいは使用せずに木材の分解速度を向上させる手法の開発が重要と思われた。この点については、既に幾つか可能性のある手法を見出しており、次年度以降、重点的に検討する計画である。 また、金属カチオンによる分解反応制御の可能性も見いだされたため、様々な金属カチオンを検討すると共に、その作用機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
セミフロー反応器の製造及び改造のための予算を見込んでいたが、結果として既有の部品などで多くを代用することができ、計画よりも安価に済んだ。また、走査型プローブ顕微鏡観察について、ウルトラミクロトーム用部品やカンチレバーの購入に比較的多くの費用が掛かることを想定していたが、こちらも短期間で一定の成果がでたため、想定よりも安価に済んだ。 これらの残額については、新たに判明した金属カチオンによる分解反応制御及びその作用機構の解明のために使用する。
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